ククリア学園 ヒルベルトくんとハリー

ククリア学園

-Astorni & Isukarna-

ヒルベルトくんとハリー

 
アストルニ学園に入学した時点で見知らぬ誰かと寮生活を送ることになるのはわかっていた
でも俺にとっては彫刻の勉強ができれば寮での生活はどうでもいいことで、誰が同じ部屋だろうとかまわなかった

だから初めて寮に入った日、部屋番号を確認した俺は特に何も考えずにその扉を開けた




その瞬間、中にいた眼鏡の男が振り返る

そしてその鋭い緑の瞳と目が合った


「・・・」

「・・・」


しばしの無言

おそらく同室なのであろうその男は俺よりも背が高く、見下ろすように睨み続けている


「あー・・・同室?」

「あぁ・・・」

「・・・」

「・・・」


更に無言


「・・・俺、ハリー・ロサレス」

「・・・ヒルベルト・シエスタだ」

「・・・」

「・・・」


そして無言

その間も同室の男の視線は鋭いまま


こいつはなんでずっとこんな顔してるんだ?


一瞬疑問に思ったものの、すぐにどうでもよくなった俺は「そうゆう顔なんだろう」と自分を納得させ、適当な所に荷物を置き先に届いていた彫刻の道具を広げることにした

その日はそのまま特に会話もないまま終わった

それが俺とヒルベルト・シエスタとの出会いだった




その後もしばらく俺とヒルベルトは特に会話もなく生活を送った
いや、軽い挨拶くらいしたのかもしれない
その時の俺は、たくさん保管されている卒業生の作品や資料を見たり、新しく作品を作ったりすることに夢中で正直あまり覚えていない
特にクラスメイトから頼まれたはじめたアクセサリー作りが意外とおもしろく、部屋の勉強机は綺麗な石や華やかな細工の型が所狭しと並び、作業台のようになっていた






そしてそれは何個目かのアクセサリーを作り終えた時だった


「・・・なぁ」


完成したブローチを眺めて一息ついていた俺は声のした方に目を向ける

そこにはしばらくぶりに顔を見た気がする同室の男が初対面の時と変わらず難しい顔をして鋭い視線を俺に向けていた


「・・・俺に言ってんの?」

「あたり前だろ!他に誰がいるんだ・・・!」


まぁ、確かに部屋には俺達二人しかいない
しかし不思議に思うだろう
今までほとんど話しかけてこなかった奴が突然声をかけてきたんだから



「なんだ?」

「・・・あ~・・・その・・・」



ヒルベルトは更に眉間に皺を寄せ、言いにくそうにもごもごしている

そんな顔を改めてまじまじと見てみた

こいつこんな顔してたんだな
髪の巻具合は俺といい勝負か・・・いや、こいつの方がすごいか?
眼鏡の度はどれくらいなんだろう
そういえば俺の視力っていくつだっけ?





「・・・おい、聞いてたか?」

「あ?聞いてなかった」

「お前!」

「わりぃ。なんだって?」


ヒルベルトは今にも殴りかかってきそうな雰囲気だったがぐっと拳を抑えて俺に向き直る

そして軽く深呼吸をすると


「・・・アクセサリーを・・・作ってほしい」


呟くようにそう言った



アクセサリー?
こいつが?

最近アクセサリーの依頼が増えた
どうやら近々イスカルナ女学院との交流会があるかららしい
みんな恋人だったり好きな相手に送るのだろう


と、いう事はだ

こいつにもそんな相手がいるってことか
この『喧嘩売ってんのか』とでもいうような顔つきの男に


まっすぐな緑の瞳

そういえばこいつ、初対面の時もそうだったけど目は逸らさないんだな



なんとなく検討違いな事を考えていた頭を作業モードに切り替える



「ブローチでいいのか?」

「あ?あぁ・・・」

「メインの石はどうする?」

「ま、まかせる」

「送る相手の瞳の色は?」

「濃い・・・茶色だ」

「イニシャルは入れるか?」

「い、入れた方がいいのか?」

「デザインに注文は?」

「と、特にない」

「わかった。作ってく途中で見せるから気になる事があったらその時に言えよ」

「あ、あぁ・・・」



返事を聞き終わると同時に作業台・・・勉強机に向き直る
どの色の石がいいか選ぶ所からスタート


隣から感じる視線がさっきまでよりも少し和らいだ気がした





それからは同室という事もあり、意見を聞きながらブローチ作りを進めていくことになった
まぁ、聞いても「それでいい」「まかせる」という返事がほとんどだったけど


会話をするようになり、少しずつヒルベルトの事が見えてくるようになった

朝は俺と同じくらい寝起きが悪いとか
クラスメイトにもよく睨みつけているとか
実はチキンだとか

ただそこに『いる』だけだった奴が『ヒルベルト』になっていくのがおもしろく感じた





突然意識がハッとする
時計を見るともう深夜といえる時間
作業に夢中になりすぎていた

両手を上に伸ばし、椅子の背にぐっともたれる
視線を机に戻すと、隅の方に見慣れないものがあった

滅多に使われることのないカップ
その中にはおそらくコーヒー

もちろん俺が淹れたものじゃない

と、すると・・・

向かいのベッドを見れば布団から少し見えているくるくるとした髪
聞こえる歯ぎしりに「顎痛くなんねぇのかな」とぼんやり考える

カップを両手で持てば僅かに暖かい



「さんきゅ・・・」




最近知ったことの一つ
ヒルベルトは慣れない人に話しかけるのにかなりの勇気を使うようだ
そんなあいつが俺に頼みごとをするのはどれくらい気合をいれたんだろう


そうしてまでプレゼントをしたい相手に純粋に興味がわく

交流会でプレゼントを渡す所を見に行こう

ヒルベルトは嫌がるだろうけど関係ない



俺はそれを自分の中での決定事項にしてぬるくなっているであろうコーヒーに口をつけた


「・・・にっが!!」
 



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illustrate by 藤村ゆみ



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