ククリア学園 紳士二人、乙女二人-幕間-
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ククリア学園

-Astorni & Isukarna-

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紳士二人、乙女二人-幕間-

 
 夜。
 聖イスカルナ女学院敷地にあるフェルタ寮の一室。
 灯りの落ちた室内で、寝台に腰かけセリーナは枕元の窓から外を見ていた。
 別に何が見えるわけでもない。寮の三階から見える景色は、いつも変わらない学院の建物と敷地が広がっているだけだ。
 セリーナの瞳は正確には窓の外を見ているわけではなかった。焦点の曖昧な赤茶の瞳は、どこか遠くを見ている。
 すっかり夜も更け、日付が変わろうかという刻限。セリーナは眠れずに、窓の外を見ていた。
「――セリーナ……?」
 向かいの寝台からの呼びかけに、視線を動かす。
 俯せ気味に寝ていたアイネズが上半身を少し起こして、セリーナを見ていた。
「アイネズ――寝ていたんじゃなかったの?」
「寝てた……わよ。アナタの方は……ずっと起きていたみたいだけど。眠れないの?」
 セリーナは何も言わず、また窓の外に視線を移す。先ほどからずっと変わらない姿勢。
 アイネズは薄闇の中、目を眇め、何度か見開きを繰り返した。のんびりと手の甲で目じりを擦る。
「セリーナ?」
 静かな夜の気配に溶け込むようにして、窓の外を見ているセリーナ。その姿からは、何故か淋しさを感じる。
 静けさに遠慮するように、アイネズはそっと息を吐いた。
「……セリーナ。アナタ、ひょっとして……今日のこと考えてるんじゃないの?」
「――今日の、こと?」
 セリーナの視線は動かない。
「もっと正確に言いましょうか。アナタ、考えてるんでしょう――サー・マクシム・マレットの事」
 瞬間、上品な姿勢で寝台に腰かけていたセリーナの体に緊張が走る。
 しばらくの間。
 やがて、ゆっくりとした動きで、セリーナはアイネズの方を向いた。薄い闇が降りていて、その表情はしかとはわからないが、笑みの気配がする。
「……そうね。あの方の事を――考えていたわ」
「――やっぱり。なんだかセリーナは、本当に興味を惹かれていたみたいだものね。あの方に」
 アイネズのしみじみとした言葉に、セリーナはかすかな笑い声を立てた。
「興味――そう……あの時私達に声をかけてきたのは、サー・マクシム・マレットと、サー・モンブラン・ビーニャス――あの方たちだけだった。何人もの方が声を掛けようか、近づいてこようか迷って結局してこなかったのに。真っ直ぐに、私達の方にやってきて」
「少し驚いたわね。あんな風に正面から来られるなんて」
「自分に自信があるのかしらって思ったわ。まあ……実際、そうなのだろうと思うけれど。アストルニの双璧と言われてる方たちだものね」
 セリーナはゆっくりと首を左右に振った。
「だから――なんだか少し、意地悪と言うか……挑発……したくなってしまって」
「挑発――それで……あんな風に、直接的な質問ばかりしたのね」
「ええ――サー・マクシム・マレットはご自分の事を不躾だと繰り返されていたけれど、あたしの方がよっぽど不躾だった」
 闇に目がなれたアイネズは、セリーナが自嘲気味に笑うのを見た。
「なのにあの方は、そんなあたしに気を悪くすることもなくて、それどころか……あんな……」
 顔が歪む。どこかが痛いような、泣きたいような、そんな風に。
「サー・マクシム・マレットは、ずるい」
「――ずるい?」
「あたしの事、不思議な方って言ったわ。あの方は。言葉としては別に良い意味ではないのかもしれない。でも――あんなに優しい顔で、あんなに柔らかな視線で、あんなに素敵な声で、言うなんて――ずるい」
「セリーナ……」
 窓の方に首が巡る。先ほどまでと同じ姿勢。
「そんなことを考えていたら――眠れなくて……ふふっ……おかしいわね」
 アイネズはセリーナを見つめて眉を顰める。アイネズとセリーナの付き合いは長い。子供の頃からだ。その長い付き合いの中で、セリーナのこんな様子は見たことがない。
 夜の闇に溶けていってしまいそうな、居住まい。
「ねえ、セリーナ」
「なあに?」
「また――話してみればいい。明日も、交流会はあるのだし」
「……明日」
「参加者は大勢いるけれど、サー・マクシム・マレットは生徒会長で目立つわ。会場を常に回っているようだし。そうでなくても腕章を付けた方に聞いて、呼んでもらえば――」
「――ダメよ、それは」
「何故?」
「あの方は忙しいのよ? 交流会全体の責任者として、様々な仕事をされているのだもの。お邪魔はできないわ。ましてや呼び出すなんて」
「でも」
 何故か不満げなアイネズに、セリーナは悪戯っぽく笑ってみせる。
「そうね。もし、アイネズもそうしたいのなら――してもいいけれど」
「……え?」
「アイネズも、探したいのなら――サー・モンブラン・ビーニャスを」
「なッ……」
 勢いよくアイネズは体を起こした。零れ落ちそうなほど目を見開いて、呆然とセリーナを見やる。
「な、何を……」
「ふふふ。アイネズもサー・モンブラン・ビーニャスの事が気になっているんでしょう? だって二人で見つめあっていたじゃない。最初から、ずっと。あたしと、サー・マクシム・マレットが話している間も」
「あ、あれは……」
 素早く顔が逸らされる。滑らかな金の髪が浮遊した。
「あれは……見つめあってたわけじゃ」
「――そうなの? ずっと視線を合わせていたのに?」
「あれは、そうじゃなくて、あの方が――逸らさなかったから……」
 少し早口の震えた声は、アイネズが照れたり、恥ずかしがっている時だということをセリーナは知っている。
 セリーナは笑みを深くした。
「そうねえ。アイネズの切れ味鋭い視線を逸らさず受け止められる人なんて、滅多にいないわよね」
「……」
 アイネズは無言で顔を逸らしたまま。薄闇で判然とはしないけれど、きっと目元を赤くして、唇を噛んでいるに違いない――そう、セリーナは思った。
 冴えた夜の空気を深く取り込む。セリーナは立ち上がり窓辺によるとカーテンの紐を解いた。
「さあ。アイネズ、そろそろ寝た方がいいわ。疲れているでしょう? 今日は大丈夫だったけれど、アナタは無理をしないようにしないと」
 アイネズはわざとらしいくらい大きなため息を吐くと、寝台に体を横たえる。
「アナタこそ、早く寝なさいよ。明日、お化粧ののりが悪くなっても知らないわよ」
「あら……ふふっ――それは困るわね」
 笑いながらセリーナはカーテンを閉める。
 部屋の中に広がる、闇が、濃くなった。



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