ククリア学園 紳士二人、乙女二人-2-
FC2ブログ

ククリア学園

-Astorni & Isukarna-

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
スポンサー広告 | TB(-) | CM(-)

紳士二人、乙女二人-2-

 
 乙女達は小さな声で談笑している。専ら話しているのは柑橘色の髪をした乙女のようだったが、金の髪の乙女の表情も柔らかい。
 二人は揃って、何事かに笑っていたが――近づく気配に顔を巡らせた。
 乙女達と正面から、目線が合う。
 金の髪の乙女は表情を消した。一歩後ろに下がると、柑橘色の髪の乙女の右腕に触れながら、その背後に少し隠れる。
 柑橘色の髪の乙女は長い睫毛の縁取る瞳を少し見開いて――ふんわりと微笑みを浮かべた。
 二人の乙女と、マクシムとモンブラン。四人の距離はもう手が届くほど。
「聖イスカルナの乙女様方――今宵の会の方、楽しんでいただけておりますでしょうか」
 まずは一般的な社交辞令の挨拶。
 マクシムの言葉に、応じたのは柑橘色の髪の乙女。
「はい、お蔭様で――アストルニ学園の……生徒会の方ですね。学園の皆様のご尽力のお蔭で、とても楽しい時間を過ごさせていただいております」
 こちらも社交辞令と共に、優雅で――右腕を金の髪の乙女に取られているので、左手のみでドレスの裾を抓んだ姿勢ではあるが、まるでそんなことは取るに足りないと思えるような――お辞儀がされた。一朝一夕で身に着けたものではない、本物の動きだ。
「学院と学園が共に行っている交流会ですのに……私達イスカルナの者はまるでご招待頂いているかのようで」
「我々学園の者は皆、乙女様方をおもてなしするつもりでこの会に参加しております。お気遣いいただくことではございません。気を遣うのは我々だけで充分です」
 赤みがかった茶色の瞳が、マクシムを見据え、楽しげに細まる。
「ふふふ……では、お二人は私達にも気を遣ってくださったのかしら」
 マクシムは、長い睫毛が細かく震えるのを見つめながら、伺うように僅かに首を傾げる。乙女の笑みが深くなった。
「お二人は私達が――“浮いて見えたから”気を遣って声を掛けてくださったのではありませんか?」
「――」
 真っ直ぐな、これ以上ないほど直接的な言葉に、さすがのマクシムも目を瞠る。柑橘色の髪の乙女の笑みはどこか悪戯っぽい。大人びた顔に浮かぶ子供のような笑み。
 ゆっくりと息を吸い、その笑みを受け止め――笑み返す。
「正直に申し上げます。お二人の周りに空間が空いていて――目を惹かれました。誰にも声をかけられることなく、そこに自然と佇んでおられた、お二人に。“浮いて見えた”とまでは申しませんが――いえ。言葉を飾っても仕方がない――ご指摘の通りです。不躾でした」
「ふふふ。そんなに申し訳なさそうになさらなくても大丈夫です。私達は“敢えて、そうしていた”んですもの」
「――敢えて……ですか?」
 柑橘色の髪の乙女はその疑問には答えず、改めて姿勢を正した。笑みの形に引かれた口から零れ出たのは
「お名前を伺ってもよろしいですか?」
 ごく当たり前の問い。マクシムも姿勢を正す。
「大変失礼を致しました。私はアストルニ学園高等部二年――マクシム・マレットです」
 軽く腰をかがめ、流れるような動きで黒いレースの手袋に包まれた左手をそっと取り――右手は金の髪の乙女に腕を取られたままだ――甲に恭しく口づけを落とす。
 本来金の髪の乙女にも同じようにするべきではあったのだが、どう見ても手を取らせては貰えない風情。無理に行う方が失礼と判断した。
「そして、こちらは――。……モンブラン?」
 そこで初めて、マクシムは隣のモンブランの様子に気付く。喋るのをマクシムに任せて控えていたモンブランは、身じろぎせず、視線を一点に注いでいた。マクシムはそれを追う。たどり着いた先には、斬りつけるような気配を宿した赤い瞳――金の髪の乙女の瞳があった。
 モンブランの横顔は、いつもと変わらない。怜悧な表情。眼鏡の奥の瞳は鋭く、それを向けられて受け止められる者は少ない。しかしその視線は、完全に乙女のものとぶつかっている。
 見つめあっているのでもなく、睨み合っているのともまた違う、不思議な視線のやり取り。
「――モンブラン」
 再度強く呼び掛けると、モンブランは息を呑んだ。忙しない瞬き。緩慢な動作で髪を掻き上げ、そのまま額に手を当てている。
「失礼を――致しました。同じくアストルニ学園高等部二年、モンブラン・ビーニャスです」
 辛うじて身についた紳士礼をしたものの上の空。らしくない様子に、マクシムは眉を顰める。
 柑橘色の髪の乙女も不思議そうにモンブランを見つめていたが、すぐに上品な笑みを浮かべた。
「サー・マクシム・マレットとサー・モンブラン・ビーニャス……。ガウンを纏われていらっしゃるから生徒会の方と諒解しておりましたが、会長様でしたのね。お声を掛けて頂いて光栄ですわ――私はイスカルナ女学院高等部二年、セリーナ・ギローと申します。そしてこちらは――」
 柑橘色の髪の乙女、セリーナ・ギローは自分の陰に隠れている乙女に目を向けて――モンブランを見つめていた時と同じ顔をした。
 マクシムも乙女を見る。その赤い瞳は先ほどモンブランの視線を追った時と変わらず、彼の視線を無表情に受け止めている。
 セリーナ・ギローが僅かに掴まれたままの腕を引いた。乙女の腕が外れる。途端、表情のない顔に動揺が走る。
「あ……。……アイネズ・フレデリック……です」
 金の髪の乙女はそう呟いて、またセリーナ・ギローの腕を掴んだ。
 セリーナ・ギローの顔には困ったような笑いが浮かぶ。
「アイネズ。そんなご挨拶をしては、失礼でしょう。シスター・ドリスに怒られてよ」
「今、シスターいないじゃない……」
「そう言う問題ではないわよ……もう」
 咎めてはいても、セリーナ・ギローの表情はあくまでも優しい。金の髪の乙女――アイネズ・フレデリックへの慈しみと信頼が伺える。
 アイネズ・フレデリックは相変わらずセリーナ・ギローの陰から、モンブランに視線を向けている。そしてモンブランも、視線を逸らさない。
 マクシムとセリーナ・ギローは、二人を見比べた後顔を見合わせ一頻り笑った。
「サー・マクシム・マレット。先ほどのお話ですが」
「はい――敢えて、と仰いましたね」
「私達も別に話しかけられないようにしていたつもりはないのです。話しかけて欲しくなかったわけでもありません」
 それは、マクシムにもわかった。どこか近寄りがたいような、そうでないような雰囲気に包まれて佇んでいた二人の乙女。拒まれているようには感じなかった。
 彼女たちは“ただ、そこに立っているだけ”なのだと。
「少しだけ退くようにして、他には興味がないように二人でいれば、何となく、そのままにしていただけるものですから――それに甘えていました」
「なるほど――そこに私達が不躾に声を掛けてしまった、と」
 セリーナ・ギローは笑いながら首を横に振る。
「話しかけて欲しくなかったわけではないのですから、いいのです。それが、私達に対する興味故、だとしても」
「――レディー・ギロー」
「私としても――そんな私達に興味を持って下さった方に対して、今興味を持っておりますから」
 赤茶の瞳が、マクシムの瞳を捕えてくる。どこか探るような視線。息を止めるようにして逸らさずにいると、長い睫毛が忙しなく揺れた。
「サー・マクシム・マレットは――よろしいのですか?」
「何が――でしょう」
「今、こうして私達とお話を続けていて。会長として――お仕事があるのでは?」
 マクシムは小さく笑う。
「私達も、礼節の授業の一環としてイスカルナの乙女様とお話をせねばなりません。交流会を執り行う立場とは、別に。参加者として」
「まあ、そうなのですか。お仕事もされているのに大変ですね」
「それで――先ほども申し上げた理由でお声を掛けさせていただいたのです」
 ゆったりと柑橘色の頭が縦に一度動く。セリーナ・ギローは口元に左手を添え、少し首を傾げた。
「では、お尋ねしても宜しいですか?」
「私に答えられることであれば」
 セリーナ・ギローは一歩前に出た。マクシムの目の前に。彼女の腕を掴んでいたアイネズ・フレデリックの手はいつの間にか離れている。
 見上げてくる大きな瞳。赤茶色の面に、マクシムが映っている。甘い香りが鼻腔をくすぐる。気配が混じったことを意識する。
「こうして話をしてみて――どう思われましたか? 貴方が興味を持った、その結果は」
「――興味を持った結果……ですか」
「率直な感想をお聞きしたいなと」
 何故、そんなことを――そう思いながらも、逆らえない。
 視線に絡め取られて、段々と動けなくなっていくような気さえする。
「それは――」
 巧く言葉が出てこない。
「ふふふっ」
 細かな、楽しげな笑い。今まで見せてきたものとは違う、乙女と言うよりは、ごく普通の少女のような笑い。
「困っていらっしゃる。やはり気を遣ってくださっているのかしら」
「いえ――何と申し上げればいいか……」
「サー・マクシム・マレットは、きっとこう思われている」
 ゆっくりと重々しい口調。明るい紅の指された唇がやけにゆっくり動いて

「――変わった、女、だと」

 放たれた言葉は、マクシムの動きを止めた。
「――!」
 完全に不意を衝かれた。その言葉は喉元に突きつけられた刃のようだった。
 否定の言葉は出てこない。それは確かにマクシムの中に存在した想いだ。はっきりと言葉に出来なかったのは、それが指摘されるまで形にならなかった故。
 近づきがたいような、そうでないような不思議な空気を作り出していたのは、二人でしていたことではないのかもしれない。
 淑女としての振る舞いを完璧にしてみせながら、時折覗くそれを裏切ったような表情。今もセリーナ・ギローの瞳からは完全にマクシムのことを面白がっていることが伺える。
「――参ったな……」
 マクシムは呟いて、口元を覆う。そのまま深く息を吸い、一度、瞼を閉じる。瞑目して暫し。心を落ち着けるようにして瞳を開けると、そこにはまだ赤茶の瞳があった。逸らさずに覗き込む。
「レディー・ギロー。先ほどから私は、貴女に不躾なことばかりしてしまっているようだ。確かに私は――貴女の事を変わった……いえ、せめて不思議な方だと思ったと言わせてください」
「意味合い的にはあまり変わりませんわね」
「はい。ですが――変わったなどと、貴女のことを評したくはない。別に誤魔化しているわけではなく、私の気持ちとして。……貴女は――不思議な方だ」
 今度はセリーナ・ギローの方が不意を衝かれたような表情をした。目が瞠られて、瞬きが、三度。どこか呆然とした顔で、そのまま一歩、先ほど詰めた距離を退いた。
 瞬間マクシムの心に過ったのは、名残惜しさ。微かに混ざっていた気配が遠くなっただけにも関わらず、強くその想いが胸を打つ。
 そんなマクシムの想いを当然、知る由もなく。セリーナ・ギローは再びアイネズ・フレデリックの隣に並ぶと
「サー・マクシム・マレットは正直で――お優しい方ですね」
 柔らかな微笑みと共に、また、マクシムの呼吸を止めるようなことを言った。





「マレット会長、ビーニャス会長」
 横合いから掛けられた声に、マクシム、モンブランは即座に我に返った。
 セリーナ・ギローの言葉に固まっていたマクシム。
 アイネズ・フレデリックの視線に縛られたままだったモンブラン。
 二人は一瞬で顔を引き締め、姿勢を正した。声の方に向き直る。本部に詰めているはずの係の生徒が、困りきった様子で控えていた。
「何か、あったのかな?」
「お話し中、失礼いたします。大変申し訳ありませんが、中等部の方へお越しいただけますか」
「中等部? 中等部はもうそろそろ終了の時間ではないのか?」
 モンブランの指摘に、係の生徒は更に恐縮したように顔を歪めた。
「はい。もう後五分ほどになりますが――今の状況では、終了も出来ず」
「――終了できないだと?」
「どういうことだろうか」
 二人で問い詰めるが答えがない。彼は、マクシムとモンブランではなく、その側にいる乙女二人を気にしている。
「――なるほど。説明は憚られる、か」
 マクシムはため息を吐く。
「――わかった。すぐ行こう」
 モンブランは眼鏡を押し上げた。
「レディー・ギロー、レディー・フレデリック」
 マクシムとモンブランは、二人の乙女に向き直る。
「申し訳ありませんが、これで失礼させていただきます。この後もごゆっくりと会を楽しまれて下さい」
 正式な紳士礼をし、そのまま返事も待たずに身を翻す。
 二人の乙女の視線を背に感じながらも振り返らずに、心持ち駆け足で中等部会場への最短距離を行く。
「――マクシム」
 物言いたげなモンブランの視線。それを素知らぬ風に受け流し、マクシムは短く笑う。
「――後に、しよう。貴方が僕に言いたいことは、多分、僕も貴方に言いたいことだから」
「そうか……そうだな」
 前庭を駆け抜け、東庭にたどり着く。
 マクシムとモンブランは
「――やれやれ……」
「――まったく……」
 東庭に足を踏み入れた途端、揃って大きなため息を吐いた。





 夜八時半。交流会一日目が終了して一時間が経った。
 中等部の騒ぎの方は、マクシム、モンブランによって何とか治められ、その後滞りなく終了にこぎつけることが出来た。
 六時過ぎに中等部の方へ行き、騒ぎを治め、後の処理、東庭の片付けと怒涛の如く行って気づいた時には既に七時を過ぎていた。
 高等部の終了時間は七時半だが、夜も遅いということで、七時から順次退出が許されている。その為、高等部の方は緩やかに人数が減っていき、穏やかに終了時間を迎えられたのは何よりだった。
 その後、明日の会の為に、二つの庭の片付け、整頓を完了。
 そして現在、係となっていた学園の生徒全員が、前庭に整列している。
「皆、今日は一日大変だったかと思うが、本当にご苦労だった。なんとか無事一日目を終えることが出来た――ありがとう」
 マクシムの感謝の言葉に、全員が礼をする。
「しかしながら、様々なトラブルがあったことも事実。今日のことを踏まえて幾つか、注意事項などを連絡しておきたい。疲れているかと思うが、しばらく聞いてくれ」
 表向きには無事に終了した交流会一日目。その陰で大小様々なトラブルがあった。そのすべてをマクシムが振り返り、どう処理したか、再発した場合どうするかといったことを述べていく。細かな注意事項が幾つもあったが、皆、それを真剣に聞いていた。
「大勢の参加者がいる会だ。明日もおそらく今日と同じように色々な問題が起こるかと思う。各人、どんなことが起きても対応できるように心構えをして臨んで欲しい――以上だ。今日はゆっくり休んで明日に備えてくれ」
 全員で再度の礼。解散となった。
「お疲れ様、モンブラン」
「お疲れ、マクシム」
 疲れ切った様子で帰っていく学園の生徒たちを眺めながら、二人はお互いを労う。どちらの顔も疲労の色が濃い。
「今日はなんとか乗り切ったが――まだ明日があるからな」
「そうだね。ここで気を抜くわけにもいかない。明日まで無事やり遂げて初めて、交流会が成功したと言える」
「明日は、今日のようなことが起きないといいんだが……まあ――無理だろうな」
 うんざりとした表情のモンブランに、マクシムの笑いも苦い。
「だろうね。もっと想定を越えたことが起きるかもしれないし……」
「おい。不吉なことを言うな。今日以上のことがあってたまるか」
 声を揃えた笑いも、いつものような力はない。
 人気が少なくなり、数時間前まで賑わっていた庭園には静けさが広がり始めている。
「――マクシム」
「ん?」
「さっき、俺に言いたいことがあると言っただろう」
 モンブランの口調は静かだ。
「そうだね。でも――貴方の方が先に僕に言いたいことがあったはずだよ」
 マクシムも淡々としている。
 並んで歩きながら、お互いを見ずに二人は言葉を交わす。
「先ほどの――乙女様方のことだ」
「――ああ」
「君は――珍しく、執着していたようだな。あの二人の乙女……いや、レディー・ギローに」
「……そう……だね」
「フッ――否定しないのか」
「否定なんかしても、貴方にはお見通しだろう」
 マクシムは肩を竦め、何処か遠くを見るような目をした。
「あの女性(ひと)は――不思議な方だ。この上ない淑女のようで、そうでないような表情を見せる。しとやかな佇まいで、思いも掛けないことを言う。不思議な――方だ」
「――本当に、珍しいな。君が、他人の事をそんな風に言うのは」
 柔らかな物腰で誰にでも接する、マクシム。けれど、必要以上には他人を寄せない。常に一定の距離を保って、外側からすべてを眺めるようにしている。
 故に、セリーナ・ギローに対しての態度も、今の言葉も、意外なものと言えた。
 マクシムはバツの悪そうな顔で、モンブランを睨む。
「貴方だって人の事は言えないだろう。貴方も十分執着していたように見える――レディー・フレデリックに」
 マクシムの指摘に、モンブランは答えない。どこか居心地の悪そうな表情で、口を引き結んでいる。
「僕とレディー・ギローが話している間も、ずっと見つめあっていたのだろう。レディー・フレデリックと」
「――あれは……」
「僕からしてみれば、あの時の貴方の方がよっぽど珍しい」
 短い舌打ち。モンブランは乱暴に頭を掻いた。
「別に、見つめあっていたつもりはない。あれはただ――逸らせなかった……いや、違う。あの女性(ひと)が逸らさなかったから」
 むず痒そうな表情に――モンブランがこんな顔をするのも珍しい――マクシムは笑う。
「フフッ、確かに貴方の視線を真っ向から受け止められる人間は殆どいないからね――しかも女性で、となると稀有な存在と言えるかな」
 また、舌打ち。モンブランは少し足を速めた。
「さっさと帰るぞ。明日も、早い」
 ぶっきらぼうな口調は明らかに照れ隠し。
「ああ。そうだね。明日も――」
 語尾は不自然に消えた。それ以上の言葉はない。
 モンブランは、マクシムを横目で見やったが何も言わなかった。

 



807843411.jpg

illustrate by 7



コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する
カテゴリ
検索フォーム
QRコード
QR


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。