ククリア学園 紳士二人、乙女二人-1-
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ククリア学園

-Astorni & Isukarna-

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紳士二人、乙女二人-1-

 
 良く晴れている。多少暑いくらいの陽射しが、石畳の上に降り注ぐ。その熱を和らげるように吹く風は、甘い花の香を乗せている。
 交流会当日の朝。会場となる庭園の前庭に、アストルニ学園の生徒総勢六十名が整列している。今日、明日の交流会に於いて様々な裏方的雑事を担うことになる、中等部高等部各学年から十名ずつ、特に選ばれた者達だ。
 前庭正面にあるテラスハウスを背に、整列する一同の前に佇むのは生徒会の面々。中央にはマクシムとモンブランが並び立っている。
「朝早くから集まって貰って、すまない。今日から二日間よろしく頼む」
 マクシムが一同を見回して、一度深く礼。それに応じるように、整列している全員が綺麗に揃った礼を返す。
「我々の役割は、アストルニ学園に学ぶ紳士として、聖イスカルナの乙女様方を手厚くもてなすこと。乙女様方が気持ちよく過ごされるよう気配りを忘れないでくれ」
 重々しい言葉に全員の顔が引き締まる。
 マクシムは今日の流れ、注意事項を述べた後、部署ごとに幾つかの指示を出した。
「今回の交流会の成功は、我々の働きにかかっているとも言える。各人それを意識して、行動して欲しい――以上」
 締めの言葉に、一同揃って再度の礼。顔を上げると同時に全員動き始めていた。
 マクシムとモンブランはそれを眺めて、息を一つ。
「――始まったな」
 モンブランの目線は厳しい。表情も硬く、珍しく緊張しているようだ。
「――そうだね。これから二日……気が抜けない」
 マクシムは曲がってもいない首元のタイを気にしている。やはり緊張しているのだろう。
 二人は視線を交わすと、頷きを一つ。揃って踵を返してテラスハウスへと向かう。
 庭園の中央にあるテラスハウス。館とも言える広さのあるそこは、女学院生達の控室かつ、会に饗される食事などが作られている場所だ。
 一階正面の広間では、テラスハウスに勤める職員たちが集まって、打ち合わせをしていた。そこに二人で静かに近づく。中心になって指示している初老の男が――テラスハウスの支配人だ――気付いて頷いた。
「――お疲れ様です」
 穏やかな声。向き直ってくれたところに、足早に近づく。
「本日はありがとうございます――ご挨拶させて頂いても構いませんか?」
「もちろんです。お願いします」
 五十人ほどの職員たちの前にマクシムとモンブランは進み出て、深く一礼をする。
「アストルニ学園生徒会代表、マクシム・マレットです」
「同じく生徒会代表、モンブラン・ビーニャスです」
「本日は、我々アストルニ学園と聖イスカルナ女学院の交流会に場をお貸しいただき、ありがとうございます。我々も精一杯務めさせていただきますので、皆さまのお力をお貸しいただきたく思います。どうぞよろしくお願いいたします」
 挨拶の後に、二人揃っての正式な紳士礼。軽い拍手が起こる。
 支配人が進み出てきて手を差し伸べてくる。順に、しっかりと握手を交わした。
「今回の交流会が成功された暁には、定例になるとか――是非とも、成功させましょう」
「――はい。よろしくお願いします」
 ニ、三重要事項を確認し、職員たちも解散となった。皆慌ただしく館内を動き始める。
 その光景を眺めて、先ほどと同じように一息。
「こうしてみると大きなプロジェクトだな」
「そうだね。僕ら学園のメンバーが六十名。この庭園の職員の方が約五十名」
「他にも厨房には大勢の料理人が――っと、そう言えば、料理の方はフライダ・フェイ・ホテルに依頼したんだったな――この件に関して何か話したのか?」
「特に何も。ここのところ家に帰っていないから顔を合わせていないし、敢えて連絡もしていない。厨房にはいるのだろうけれど」
「覗きに行かないのか?」
「――いや。清潔にしているとはいえ、あれこれ作業をしている僕らが厨房に侵入するものではないだろう」
 職員が右往左往する正面広間。学園の生徒も何人も忙しなく出入りしている。
「マレット会長、ビーニャス会長!」
 館の入口の方からの呼びかけに、二人同時に振り返る。
「申し訳ない。指示を頂けますか!」
 マクシムとモンブランは目を合わせ、瞬間だけ口の端を上げた。
「わかった。今行く」
 靡くガウンの裾を手に、二人は大股で歩き出した。





 日が長くなりはじめた初夏の宵。風が吹くと僅かに肌寒さを感じるが、過ごしやすいと言える気候だ。
 二つの大きな庭を持つ庭園。中等部は東庭を、高等部は西庭を割り当てられ、学園と女学院の生徒の交流が始まっている。
 開始から一時間半ほどが経った。表向き概ね滞りなく会は進んでいたが、大人数が集まる催し故、大小様々な厄介事が起きている。それらがなるべく大きな騒ぎとして場を乱さないように治めるのが、マクシム、モンブランを始めとしたアストルニ学園生徒会のメンバーと、今日の為に選ばれた生徒たちの役目だった。
「まあ、想定はしていたけれど本当に中等部生が高等部の会場に乗り込んでくるとはね」
「逆も、な。堂々と正面突破しようとするわ、植込みの下を潜ろうとするわ、挙句花を手に入れてなりすまそうとするわ――もし秋の交流会があるなら、中等部高等部まとめてやった方がいいのではないか?」
「そうすると人数が増えるのが難しい所だね。会場を分けて一定数で囲った方が、管理しやすい面もある」
「だが一つにまとめれば、俺達が二つの会場を移動する必要もなくなるからな。いい加減東と西を往復するのも……」
「確かに。まあ――秋の交流会を行うことになった場合は、その時の検討課題、かな」
「――だな」
 かしましいと言えるほどに盛り上がる中等部の会場を、マクシムとモンブランはゆっくりと歩く。
 サンドイッチなどの食べやすい軽食を中心に、色とりどりの菓子、果物が並ぶテーブルが、庭園の前方、入り口近くに多数配置されている。量が減っているところには、テラスハウスから庭園の職員が素早く補充をしてくれている。飲み物が――もちろんノンアルコールだ――乗ったプレートを手に会場全体を回ってくれているのも庭園の職員だ。すれ違う際に、軽く一礼をする。
「それにしても」
「ん?」
「――少し居心地が悪い」
 モンブランは何とも微妙な顔で、眼鏡を押し上げている。
 マクシムも、困ったように笑った。
「視線を感じるね、あちこちから。まあ僕らは目立つ――のかな。このガウンもあるし」
「見ているくらいなら、声を掛けてくればいい」
「――おや」
 マクシムは軽く目を瞠る。
「きちんと相手をしてさしあげるつもりなのか」
「まさか。多忙だからと言って、そのまま去るだけだ。そうすれば、その後は視線を向けられることもなくなる」
 相も変わらずの、ばっさりと斬り捨てるような物言いは、当然笑いを誘う。
「ははは――らしいな。でも――時間が空いたら僕らも、少しは乙女様方のお相手もしないとならないよ。礼節の授業の一環だしね」
「充分に、乙女様も含めた参加者に気を遣って、会全体のエスコートをしているのだから、それでいいのではないのか……」
「それで済むならそうしたい気持ちは僕にもあるけれど、そうもいかないだろう。それとこれとは別の話だ」
 両手を上向けて大げさに肩を竦めたマクシムに、モンブランは乱暴に頭を掻いた。
「――面倒だな」
「フフッ……見られているし、聞こえるよ。紳士らしく振る舞わないと。僕らは、アストルニの代表なのだから」
「チッ……」
 東庭を一通り見回り、現在は特に問題が起きていないことを確認が取れたところで引き返す。
 出口近くにいた中等部の責任者を捕まえ情報のやり取りをし、後を任せ東庭を後にする。
 前庭に出て、テラスハウス前の本部へ顔を出すと
「――お疲れ様です」
 本部詰めの学園生徒達が、一様に礼をしてきた。
「お疲れ様。様子はどうかな」
「特に大きな問題はありません。幾つか遺失物の届け出がありますが」
「提供される食事、飲み物の方も、充分に行き届いているようです」
「何人か気分のすぐれない方がおられましたが、控室の方に戻られて休まれています。医務室を使用した方はおりません」
 モンブランが一つ大きな息を吐いた。
「うむ――今のところは確かに問題はないみたいだな。何よりだ」
「この後も、交代の時間までよろしく頼む。何かあれば、すぐに呼んでくれ。僕らはこれから西庭、高等部の会場の方を回ってくる」
「わかりました。ご苦労様です」
 次第に闇が薄く降りてくる。庭のあちこちに設置された街灯に灯りが灯った。ほのかな煌きと夕闇が相まって、少し幻想的とも言える雰囲気が漂い始める。
 高等部の会場である西庭は東庭よりもしめやかな空気だ。そこかしこから聞こえる談笑も品がいい。
 こちらでは見回りの間に、何人かの乙女に声を掛けられた。物怖じせずに近づいてきて、引き留められる。それをやんわりと礼儀正しく躱した回数既に十回。
 マクシムは癖のある前髪を気怠げに掻き上げた。
「やはり中等部だと遠慮があったんだな……」
「遠慮とかそういう問題なのか……俺は五人に囲まれた時、獲って食われるのではないかと思ったぞ……」
「あれには参ったね……さすがに逃げられないかと思った」
「女はどうして、ああも集団になると威圧感が増すんだ……」
「フフッ――問題発言だな、モンブラン。そういうことは思っていても口に出すものではないよ。僕以外の人間がいる場所ではね」
「言いたくもなる……五人はない、五人は」
 モンブランの怜悧な顔には疲れの色が濃い。愛想よく紳士的に振る舞うのも限界と言った風情だ。
 マクシムもそれ以上咎めることはしない。内心はまったく同じ気持ちだからだ。
 二人共、なるべくそんな思いを表情に出さないようにしながら、見回りをする。
 テーブルの並ぶ手前のスペースの先、庭の奥は、歓談用のスペースとして広い敷地を取っている。所々に椅子とベンチが配置され、そこに座って語らう学園の生徒と乙女の姿が見受けられる。
 場の空気はあくまでも和やかなもので、緩やかに更けていく初夏の宵に溶け込んでいる。
 歓談用のスペースだからか、皆既に何人かずつまとまって会話を楽しんでいるために、声を掛けられることがなくなった。二人の緊張が少し解ける。
 僅かに混み合った中を抜けると、何故か空間が少し空いていた。まるでその場所だけ人払いされているかのように。訝しく思い視線を巡らせて――マクシムは足を止める。
「どうした?」
「――いや……あそこの」
 マクシムの視線を追って、モンブランも細い眉を跳ね上げる。どことなく不自然に空いた空間の中央に、乙女が二人佇んでいた。
 一人は灯る灯りに煌めく金の髪をしていた。癖のない艶やかな金糸のような長い髪。耳の脇から少し梳き上げ緩く編んでいる。右耳の上にはレースをあしらった白い花――高等部が身に着けるように指示されている花が飾られいる。僅かに吊り目がちの瞳。形の良い唇。綺麗に整った造作は人形のようで、少し無機質な印象を受けるが、身に纏っている淡いピンク色の――おそらく異国の桜という花の色なのではないか――ふんわりとしたドレスがそれを和らげている。
 金の髪の乙女と寄り添うように立っているのは、彼女よりわずかに背の高い、赤みの強い茶色の――まるで柑橘類のような――髪をした乙女だ。長い髪の毛先を緩く上品に巻いている。木の実を思わせるような瞳。すっきりと通った鼻筋。大きな口は優しい笑みの形に引かれている。身に着けたドレスは鮮やかな赤。ともすれば下品になりそうな色だが、はっきりとした美しい顔立ちには、これ以上ないほど似合っている。首から胸元が大胆に開いているが、ドレスの赤より暗い薄手のショールを纏うことで上品な印象を与えてくる。
 周囲に誰もいない開けた空間――二人の乙女が佇む様は、まるで一枚の絵画のようだ。
「――ほう」
 感嘆の息を漏らしたのはモンブラン。マクシムはそれを聞いて、己が僅かの間、息を止めていたことに気づいた。胸の内からゆっくりと緩やかに息を吐く。
「どうして――あのお二人の周囲だけ空間が空いているのだろう」
「……近づきがたいと言った風情ではある、な。だが――」
「そうだね。でも誰も寄せないと言った感じではないし、不思議と――」
 言葉が呑み込まれる。音にするのを憚るように。
 無言の時間が続く。やがて、マクシムが大きな息を吐いた。
「モンブラン」
「ああ」
「声を――かけてみないか」
「――! 何だと」
 意外な言葉に、モンブランは弾かれたようにマクシムを見た。冗談を言っているのではないかと思ったが、その横顔は真剣で、本気の発言であったことがわかる。
「僕らもこの交流会の参加者として、少しは乙女様方と語らわないといけない。それならば――あのお二人と話がしてみたい」
 マクシムの視線は、変わらず二人の乙女に注がれている。釘づけられているかのようだ。
 モンブランはそんなマクシムを、驚愕の表情で見つめ――視線を乙女に戻す。そのまま動かない。マクシムの発言に驚いたからこそ視線を動かすことが出来たが、実際には彼も先ほどから二人に縛られていたのだ。
「――いいだろう。あちらも二人、こちらも二人なのだから丁度いい」
 深い息が二つ落ちる。
 二人はガウンを羽織り直し、姿勢を正すと開けた空間に足を踏み入れた。

 



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