ククリア学園 雪家、冬の名残にて
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ククリア学園

-Astorni & Isukarna-

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雪家、冬の名残にて


※この創作は「ロイとアンセルム~雪と厨二とセンパイと」を踏まえ、「大雪の日の昼下り」から続いています※




 マクシムとモンブランは踏み固められた雪の上を可能な範囲の少し急ぎ足で歩いていた。
 学園校舎から寮への道は他に比べれば人通りがあり誰かが歩いた跡を辿れば何とか労は少なく行くことが出来たが、それも陽がある内だ。陽が落ちて気温が更に下がれば踏まれた所は凍り危険が増す。
 そもそも灯りの少ない道程で頼りになる陽光がなくなれば雪が降り積もり普段とは様相を変えてしまった状態では、慣れた学園敷地内といえど
「遭難するかも知れないな――“俺達も”」
「――そうだね」
 しごく真面目にそう判断し、二人は陽が傾き始めた頃合いに作業を終えて生徒会室を後にしたのだ。
 足元に注意を払っているからか歩く二人の口数はいつもより少ない。指定のコートを羽織ってはいるが外気は身を切るように冷たく、つい体が縮こまりがちになる。
 マクシムは意識せず顔を伏せ、首に巻いたマフラーに埋まるようにしていたからか、それに気づくのが遅れた。
 ほんの少し前を歩いていたモンブランが足を止めたため、ぶつかりそうになる。
「――マクシム」
「あ、ああ……何だい?」
「あれを見ろ」
「ん?」
 視線を上げた先に広がるのは雪原。夕陽に煌めく雪は細かな光の粒が弾けてどこか幻想的だ。その先、モンブランの指し示す方向には寮がある。校舎から続く道の先、三寮の前にはちょっとした広場があって――皆便宜上中庭と呼んでいるーーマクシムは瞳を瞬かせた。
 中庭には本来はあり得ない何かが聳えているのが見える。傾く陽光の加減でしかとは伺えないが、おそらく雪だろう。遮るもののない寮の中庭に落雪があるわけもあるまいし、綺麗なドーム型をしているとなれば人の手によるものに違いない。周囲にはこの寒いのに人影が幾つも見えて、その予想を肯定する。だとすれば――
「――フフッ……」
 歩きながらマクシムは笑った。
「あれは多分“イグルー”だね」
「イグルー?」
「北方の国に住む民族が雪で作った住居だよ。もう少し一般的に馴染みがあるのは東国の“カマクラ”かな」
「住居――ということは、ただ雪が盛られているわけではないんだな」
「周辺にいる生徒の動きからすると中に入れるのではないかと思う。遠目に見た感じでは、随分しっかり造られているようだけど――よく見ると、ほら、だいぶ雪が無くなっている」
 今更に周りを見回せば、寮の中庭から一番近い学園校舎入口までの道がだいぶ綺麗に除雪されている。
 同じように首を巡らせたモンブランも小さな笑いを零した。
「校舎までの道が出来ているな。あちらから帰ってくるべきだったか」
「本当にね」
 二人は生徒会室から戻る前に教員室に顔を出した。教員室からは正面玄関の方が近かったので、そちらから戻ってきたのだ。
「そもそも寒いのだから遠回りになっても校舎内を通って通用口を使うべきだったね。そうすれば楽が出来た」
「こちらも人通りがないわけでないから歩けないことはないがな――それにしても、どうして“ああ言う事”になっているんだ?」
「さて。それに関しては誰かに聞いてみないとね――まあ、なんとなくは予想はつくけれど」
 マクシムとモンブランは真っ直ぐ中庭に向かって歩く。足元に神経は集中しながらも今はしっかりと背筋を伸ばし、意識して姿勢よく歩みを進める。二人は、このアストルニ学園中高等部の代表、上に立つ者だ。見苦しいところを晒すわけにはいかない。
 次第に雪のドームの全容が見えてくる。思った以上にしっかりと滑らかに表面が固められているのがわかる。高さも直径も充分で、大の大人が何人も余裕で収納できそうだ。その周囲を幾人も生徒が動き回り、出入りしているようで、マクシムの予想通り内部に入れるようになっているようだ。
 もう陽も落ちようとして寒さもより厳しくなる時間だというのに、賑やかな声がする。まるで子供がはしゃいでいるかのような有様で笑いを誘われるが、顔を引き締める。
 やがて
「――あ!」
 一人の生徒がようやくこちらに気づいた。瞬間固まって、
「おい、双璧だ!」
 大きく声を上げる。
 瞬時に賑わいが鎮静化しドームの周辺にいた者達は直立不動の姿勢になった。どことなく逃げ腰になっているものもいたが、その場を動かない――動けないのだろう。
「……別に怒るつもりはないんだがな」
 苦笑いを含んだモンブランの呟きに、マクシムも笑いを吐息に紛れさせる。そうして深く息を吸った。
「この寒いのに皆随分と元気なようだが、もうすぐ陽が落ちる。風邪を引いては困るからほどほどにしておいてくれ」
 特に咎めはしないという意思を見せながら穏やかに述べる。皆、その言葉に釣られるように周囲を見て夜の訪れを実感し、同時に寒さも意識したようだ。一様に身を震わせ、体を竦ませる。
「あの、会長、これは――」
 先ほど声を上げた生徒がやってきて説明をしようと口を開いたようだがなかなか続きが出てこない。意識した寒さが口元を凍らせたかのようだ。
 マクシムはただ微笑んで一つ頷く。
「この辺りの雪を掻いて造ったのだろう。もともと雪掻きはする予定であったし特に問題はないよ。これは――グリーブス君だね」
「! そ、そうです。グリーブス寮長が寮入口周辺と校舎までの雪を可能な範囲で集めて家を作ると」
「やっぱりそうか。大変だったろう――ご苦労様。とにかく本当にもう夜になる。気温はどんどん下がる一方だ。皆、部屋に戻りなさい」
「そうだ。それにおそらくグリーブスに聞いているだろうが“本番は明日”だからな。体調を整えて、明日に備えるように」
 うへえ……というような悲鳴が取り繕わず全員から上がる。そのまま何とも言えない表情で中庭にいた生徒たちは二人にお辞儀をすると、それぞれの寮へと戻っていった。
 その様子を見送り、改めて雪のドームを見上げる。
「――よく出来ているな」
 中を覗いてモンブランが呟く。
「さすがはグリーブス君と言ったところだね――入ってみよう」
 入口は狭く身を屈めなければならなかったが、内部は驚くほど広く、天井も高い。
「随分広いし高いな。俺たちの頭上にまだ余裕があるとは」
「グリーブス君の身長が百九十と少しのはず。それ以上に余裕をもたせているとすれば二メートルくらいはあるのではないかな」
「内部の直径もそれ以上にありそうだ。しかしこれほどの大きさのものを――俺たちが昼過ぎにここを通った時は何もなかったから、だいたい四時間くらいか?」
「グリーブス君の行動力と指揮能力は折り紙付きだからね。人員を募って一気にやり遂げたのだろう」
「あれだな――ガーッとやっちまうぞ――とか言いながら追い立てたんだろうな」
「フフッ……きっとそうだね。それでなんだか断れない迫力があるからね」
 想像に易い光景に、モンブランとマクシムはくりぬかれた天井を見上げて笑った。揃った笑いが微かに反響する。
 マクシムは手袋をした手の甲で壁を叩いて息を吐く。
「しっかり固められている。塩水を使ったんだろうな」
「厚さもほぼ均一に整えられているな――まあグリーブスが指示して作業したのなら当然か」
 第一寮寮長であるフレン・グリーブスは有名建築家の息子で、彼自身も造形に関しては確かな技術を持っている。雪を固めてドーム型の家を造るのくらいはお手の物だろう。
 単純ではあるが見事な出来栄えだ。
「それで、これはこのままで良いのか? 壊すのも一苦労だろうが」
「別に構わないんじゃないかな。何か問題があるわけでもないし。先生方も咎めたりはしないだろう。学園校舎の前庭に作ったというわけでもないし、グラウンドのど真ん中というわけでもない。寮の中庭なら、来客の目にもつかない――というよりこんな天候で来客も何もないとは思うけれど」
「まあ、そうだな」
 それにこんな力作を簡単に壊してしまうのは惜しい――口にはせずとも二人の想いは同じである。
「とりあえずは後は自然の力に委ねよう」
「陽に照らされて溶けるのに任せる、か。だが、これだけ固められていると簡単には溶けなそうだが」
「かもしれない――でもまあ、それはそれで良いんじゃないかな。この冬の名残みたいなものだ」
「フッ――“詩的だな”」
 視線を交わして頷きを一つ。もう一度内部を見回して、雪の家を出る。
 外はすっかり暗くなっていた。
 二人は同時に少し体を震わせる。
「やれやれ。すっかり遅くなってしまったね」
「意外に時間を取られたな。先ほど皆へ警告した人間が何をしているのかという話だ」
「この家は中に火を入れると暖まるんだけれどね。まさかそんなことを僕たちがするわけにもいかない」
 マクシムの何の気もない言葉にモンブランが眉を顰める。
 マクシムは首を傾げた。
「いや……そんな知識を得たら“それをやりそうなヤツ等がいる”なと思ってな」
 重々しい言葉にマクシムは鳶色を閃かせ、苦笑い。
「是非、そんな知識を得ないでくれるように祈る――もしくはそもそもそんな知識がないことを祈りたいね」
「そうなったらまた正座だな」
「今度はせめて屋内で」
「そうだな――体育館あたりか」
「この時期の体育館の床は冷えるからね……」
「雪の上と変わらんかもしれんな」
 軽口を叩きながら、アストルニの双璧はすっかり除雪された寮への小道を歩いていく。
 寮の中庭に佇む雪の家は、静かにその影を未だ残る雪の上に伸ばしている。



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