ククリア学園 聖イスカルナの乙女達

ククリア学園

-Astorni & Isukarna-

聖イスカルナの乙女達

 
 聖イスカルナ女学院。国内最高峰の一流女子校。幼稚舎から大学までが併設され、中高は一貫した教育を行っている。国内外から主に上流階級の子女が集まり、徹底した淑女教育を受けている。
 常に清らかに、常に美しく、淑女たれ――その校訓のもとに育っている娘たちは、装いも振る舞いも身のこなしも洗練されており、外部の者達からは憧れ羨望を籠めて「聖イスカルナの乙女」と呼ばれていた。
 モンブランとマクシムが学ぶ学園は、世間一般的には聖イスカルナ女学院と双璧とされる紳士を育成する場として認識されているし、通っている者達も決して女学院の生徒たちに劣ることもなく怯む必要もないのだが、“純然たる乙女達との交流”という事態は学園中に、動揺をもたらした。
 休み時間ともなれば、イスカルナの乙女達の噂話――妄想と言っていいようなものまで――が声を潜めてそこかしこでされる始末。所謂神秘のベールに包まれた乙女の園は、紳士教育を受けているとはいえ健康的な青少年達には、だいぶ刺激が強いのだろう。
「まあ……こうなるだろうとは思っていた」
 モンブランがため息を吐く。
「相手が聖イスカルナ女学院だから、仕方がないだろうね」
 マクシムは困ったように笑っている。
「聖イスカルナの乙女――淑女中の淑女か。どの程度のものなのか」
「そこはしっかり世間の評判通りだね。すべてが洗練されるように徹底した教育がされている――まあ内情なんかはわからないけれど」
「そう言えば、君の妹君が通っているのだったか」
「中等部二年。最近会っていないからわからないけれど、年始に家で会った時は、立ち振る舞いがだいぶ変わっていてさすがに驚いたよ」
「なるほど。噂されているところはちゃんと噂通りと。で――君が落ち着いてるのは、乙女が身近にいるから、というわけか」
 モンブランの薄い笑みに、マクシムは肩を竦めた。
「母も卒業生だしね。別に手の届かない天使や女神のような存在ではない。まあ今他の皆にそんなことを言っても無駄だろけれど」
 教室の様子を見まわす。何人かで固まって、声を潜めてしかし興奮した面持ちで何かを喋っている。耳をそばだてれば、イスカルナが……乙女が……と言った単語が漏れ聞こえてくる。聖イスカルナ女学院との交流会の話が公になってからずっとこの調子である。
「そう言う貴方も落ち着いているね、モンブラン」
「――俺か?」
「ああ。まったく興味がないという顔をしている」
 今度はモンブランが肩を竦める。
「実際あまり興味がないな――ピンとこないというか。ウチは男ばかりの姉弟で、唯一の女子である姉は普通に一般的な花嫁修業をして嫁に行ったし、母は――まあ……。そんな感じだから、俺にとってはまるで縁のない場所の話で、その点に関しては周りの連中と変わらんが、どちらかというと――扱いに困るというか」
「フフッ――そうだね。僕たちとしては“さて、どうしたものか”と言う感じだ。もちろん、学園の生徒として紳士的に振る舞えばいいのだろうけれど」
「その点を忘れそうなのが何人も出てきそうだな……」
 同級生を見つめるモンブランの表情は渋い。
 マクシムは、そんなモンブランを和らげるように笑う。
「それでも、僕たち二人が冷静ならば、どうにかできる――そうだろう?」
「――そうだな」





「まさか校内の全面清掃をするはめになるとはな……」
「乙女が来られるからという考えはわからないでもないけどね……」
「俺たちの方が出向くんで良かったんじゃないのか。女性に足労してもらうという方が紳士としては――」
「そう言ったらしいんだけれど……向こうが譲らなかったそうだ。多分、乙女の園に外部の男を入れたくなかったのではないかな……」
「随分と見くびられているな。俺たちも一流の紳士として教育を受けている。乙女の園だかなんだか知らないが、何か醜態を晒すようなことはしない。学園を代表する我ら生徒会なら尚更だ」
「もちろんその点に異論はないし、それは向こうも諒解していると思うよ。でなければ交流しようとは思わないだろう。それでも――何か譲れないものがあるんだろう、聖イスカルナの乙女達には」
 モンブランとマクシムは小声で会話をし、小さなため息を吐く。
 今日は、聖イスカルナ女学院との交流に関する打ち合わせの日だ。女学院の生徒の代表が教師と共に学園にやってくる。その為午後の授業が一コマ大々的な清掃の時間に当てられたのだ。
 もちろん皆、普段から清掃に関して手を抜いているわけではない。一見しても学舎は常に清潔に保たれている。それでも念のために隅々まで清掃しろと通達が出たのだから、聖イスカルナの乙女達と言う事象の与える影響の大きさは凄まじい。
 そして全面清掃を終え、時刻は午後三時少し前。モンブラン、マクシムをはじめとした生徒会の面々と担当教師が校門に整列している。
 当然、聖イスカルナの乙女達を出迎えるためだ。校門周辺は人払いがされているが、そこかしこからこちらを伺う気配がする。それもまたモンブランとマクシムの頭痛の種だ。
「――紳士のすることとは思えんな……」
「隠れてるだけマシ……とも言い難いね……」
「事が済んだら、学園全体に何か一つ課題でも出すべきだな」
「フッ――モンブランは相変わらず厳しいな」
「当然だろう。少し浮かれすぎだ」
「まあ――今回の件に関するレポートの提出くらいはさせても……」
 マクシムは言葉を呑み込み、タイを整える。
 モンブランも眼鏡を押し上げ、上着の裾を直した。
 他の面々も一様に己の身なりの確認をして、姿勢を正す。
 程なくして、一台のリムジンが静かに滑り込んできて、止まった。ボンネットに輝く銀のエンブレムはイスカルナの校章だ。
 運転手が――身のこなしがとても洗練されている――降りてきて、助手席のドアを開ける。磨き抜かれた、ヒールの高い灰色の靴。黒いストッキングを身に着けた、滑らかな曲線の細い足が優雅に地面に降りたつ。運転手に手を取られ車外へ現れたのは、上品なスーツの女性――付添いの教師だろう。
 続けて後部座席のドアが開けられる。運転手に一人ずつ手を取られ――皆、小さく運転手に礼を述べているのが育ちの良さと、躾が行き届いていることを物語っている――車外に降り立ったのは、三名。聖イスカルナ女学院の生徒会の面々なのだろう。三名とも佇まいからして気品に溢れている。
「遠路、お越しいただき恐縮です――聖イスカルナ女学院の乙女様方。本日は宜しくお願い致します」
 一歩進み出たマクシムが代表して挨拶をし、優雅に一礼。それに合わせて、モンブランを始めとした他の面々が礼をする。
 美しい黒髪をきつめに巻いた大人びた娘がマクシムの礼を受け、一歩進み出てきた。三人のうちの代表なのだろう。
「こちらこそご無理を申し上げ、まかり越しました次第、大変失礼をいたしました。このようにお迎えいただきありがとうございます。本日はどうぞよろしくお願い致します」
 スカートの裾を両手で抓んだ絵に描いたような礼。さすが音に聞こえた聖イスカルナの乙女――モンブランもマクシムも表情には出さず感心し、同時に頭を抱えたい心地になる。校門から離れた様々な場所から、動揺と感嘆のざわめきが微かに感じられたからだ。
「それではご案内させていただきます」
 モンブランとマクシムが並んで先頭に立ち道案内をする。あくまでも紳士的に、スマートに。後ろに続く乙女達に気づかれぬよう、周囲に鋭い威圧の視線を飛ばしながら。





 会合に使用されるのは、普段の生徒会室でも、会議室でもなく、一番上等な応接室。
 そこで学園の生徒会の面々――モンブラン、マクシムを含めた四名と、聖イスカルナ女学院の生徒三名が改めて向かい合った。
 今回の交流に関しては生徒たち主導と言うことになっており、基本教師は口を挟んでこない。その為学園側も、女学院側も、教師はあくまで付添いと言う形で、部屋の隅に控えている。
 一人ずつ、まず学園側から名前を名乗る。一礼と共に、乙女達の手を取り甲に口づけの真似事――ここはあくまでも触れないようにする。本来ならば軽く触れる方が正式ではあるが、今日は乙女達は手袋をしていない。手に触れるのも恐縮するするくらいだ。
 モンブランとマクシムは――触れてもよろしいのに――という小さな呟きを耳にした気がしたが、気づかない振りをした。
「では、今回の交流に関してですが――」
 マクシムが会の進行を受け持ち、話し合いが始まった。日程、場所については既に大筋で詰められてはいたが、時間、規模、内容など他にも決めることは山ほどあった。
 女学院側の要望を基本的に受け容れ、そこを軸に学園側から様々な提案をするということは、この会合の前に学園の生徒会で申し合わせたことだ。
 男である自分たちは、ある程度の事は柔軟に対応できる。譲れない部分は譲らずに、女学院側の譲歩を引き出していく。
 モンブランが斬り込み、女学院側と斬り合いになったところにマクシムが妥協点を出す。マクシムがやんわり抗議したところをモンブランが更に強く補足して、相手に熟考させる。そんな流れで話し合いは進んだ。
 結果。一時間半ほどの会合は、殆ど滞りなく進み大筋で合意することができた。
 話し合いが一段落したところで、マクシム、モンブランは茶と茶菓子を乙女達に振る舞う。他の二人の生徒会役員は、決まったことを冊子としてまとめるために印刷設備のある部屋に行った。
 教師たちは部屋の隅で、会合の内容を踏まえて打ち合わせをしている。
 会合の間、少し張りつめていた応接室の空気が、漂う茶の湯気のようにゆったりとしたものになった。
 三人の乙女達と、上品に畏まって茶をすする。無言の時間。かすかに茶器の触れ合う音がする中、何か話題を出したものかとマクシムが思案し始めたところで
「サー・マクシム・マレット。サー・モンブラン・ビーニャス」
 女学院の生徒会長である黒髪を上品に巻いた乙女が、抑えた声で口を開いた。
「本日は、誠にありがとうございました。お二人のお蔭で、有意義な話し合いをすることができ大変嬉しく思います。さすがは学園の殿方――感じ入りました」
「レディー・デュラム。そのように過分なお言葉を頂き恐縮です。我々としても、イスカルナの乙女様方との交流を無事執り行うことが出来そうで安心しております」
 マクシムの言葉に、黒髪の生徒会長デュラムは、艶やかな微笑みを浮かべた。
「外部の男子校との交流と言うのは、私達としても初めての経験ですので、正直戸惑っていたのですが――こちらの学園の方々ならば、安心して手を預けられます。特に――“お二人ならば”」
 重々しく言われた語尾に、モンブランは片眉を吊り上げる。隣に座るマクシムは瞑目し、必要以上にゆったりとした動作で紅茶を啜り、息を吐いた。
「私もモンブランも、学園の代表として、イスカルナの乙女様方に充分に楽しんでいただけるよう努めるつもりです。レディー・デュラムを始めとした生徒会の皆様にももちろん満足していただけるように。我ら生徒会の方で、何事もないように常に気配りを致しますので、お三方も当日は会の方をお楽しみいただければと思います」
 イスカルナの三人の乙女は顔を見合わせ、細かく――あくまでも上品に笑った。
「サー・マクシム・マレット。本当に、申し分のない紳士でいらっしゃる……。交流会の方、是非、成功させたいと思っておりますので、お力をお貸しくださいませね」
「もちろんです。全力を尽くさせていただきます」
「可能であれば、お二人とも“ゆっくりお話が出来たら”嬉しいですわ」
 先ほどの語尾よりは直接的に深い意味が籠められた言葉。モンブランは横目でマクシムを伺う。マクシムは瞳を眇め、顎に手を当てている。思案しているときのマクシムの姿だ。
 思案の時間はほんの僅か。マクシムは口を笑みの形に引いた。
「レディー・デュラム。大変勿体ないお言葉ありがとうございます。私とモンブランは主に会場での雑務を引き受けさせていただく予定です。会の進行に立ち回るのは、女性をエスコートする立場として男の役目。ですので当日、何か気づいたことがございましたら、遠慮なくお申し付けください」
 モンブランは表情に出さず、内心で笑う。乙女の言葉に籠められた意味に気づいているであろうに、まるで頓着しない風に受け流してしまった。表情も穏やかで涼しげだ。これでは乙女の言葉に籠められたものに気付いての発言なのか、そうでないのか、初対面では窺い知ることはできないだろう。
 マクシムの言葉を受けた乙女はほんの一瞬だけ表情を無くしたが、すぐにふんわりと笑んで、紅茶を口にした。それ以上の言葉はない。
 折よく別室に作業をしに行った生徒会員が戻ってきた。
 教師たちの打ち合わせも終わったようだ。
 印刷されまとめられた会議録を基に最後の確認をする。
「では、そろそろ日も暮れますので、本日はこの辺りで終了と致したいと思います。今後も何かありましたらご連絡ください」
 マクシムの締めの言葉で、会合は終了。それぞれに挨拶をし、お開きとなった。





 校門まで乙女達を見送り、その後、片付け、残務処理を猛烈に行って自室に戻った時にはすっかり日が落ちていた。
 自室に入った途端に漏れた大きなため息は、二人同時。顔を見合わせて、苦笑いである。
「さすがに……疲れたね」
 マクシムは手で肩を解している。
「“本物のお嬢様”のお相手だからな……礼節の授業を受けているのとは訳が違う……」
 モンブランは大きく伸びをして体を捻っている。二人でしばらく無言で体をリラックスさせることに専念する。
 二人ともいつになく疲労していた。生徒会役員として多忙なことは日常だったが、今日の疲れはそんなものではない。
 上着を寝台に投げ捨てたいところを身についた紳士としての振る舞いがなんとか抑えて、クロゼットに仕舞わせる。きっちり締めたタイは、無造作に緩めた。シャツのボタンも上の方は外してしまう。
 そこまでして二人は、それぞれ自分の寝台に腰かけ、もう一度ため息。お互いを労うように笑みを交わした。
「こんな調子では、交流会の方もどうなることか思いやられるね」
「まったくだ――事務的に裏方に徹するのが精神的にも良さそうな気がする」
「乙女様方に気配りするよりは、学園の男達に目を光らせる方が楽――かな」
「クッ――だろうな」
 二人の笑い声も疲労の色が濃い。
「そう言えばマクシム」
「ん?」
「レディー・デュラムの言葉。よくもまあ軽々と受け流したものだな」
 モンブランは皮肉っぽく、けれど楽しそうな笑みを浮かべた。
 マクシムは切れ長の瞳を見開いて、小さな笑いを落とす。
「あれには驚いたな……。僕の気のせいか、考え過ぎかとも思ったんだが――」
「フン――あれはイスカルナの乙女がすることとは思えないくらい、あからさまだったろう」
 長い溜息をついて、ゆっくりと首を横に振る。
「……イスカルナの乙女と言えど、浮ついてる僕ら学園の者たちと変わらないということか」
「手の届かない天使や女神ではないと言ったのは君だろう」
「フフッ、そうだったね。でも、あんな風に遠回しのようで直接的に誘われるのは――っと、モンブラン」
「何だ?」
「勝手に僕が断った形になってしまったけれど――良かったのかな? 乙女達は僕だけでなく貴方も含めて誘いをかけていた。貴方の方は乙女の誘いを受け――」
「――馬鹿を言うな」
 モンブランはあからさまに顔を歪めた。
「俺は君の返答次第では、後で盛大に文句を言うつもりだった」
「――そうか。麗しの聖イスカルナの乙女の誘いだけれど?」
「そんな偶像崇拝的なものに興味はない。そもそも君は、俺があんな誘いを喜んで受けるような男だと思ってるのか?」
 眼鏡の奥の瞳が鋭く細まる。学園中で恐れられている目線だ。モンブランに睨まれて心穏やかでいられるものはほぼ皆無と言っていい。
 しかしマクシムは悠然とその視線を受け止めて、細かく笑う。
「もちろん思っていないよ――一応、確認しただけだ」
「わかっているなら確認などするな」
「一応、だよ。レディー・デュラムをはじめお三方とも申し分のない淑女で、大変魅力的ではあったから」
「魅力的――ね」
「違うかな?」
「はっきり言えば」
「うん」
「まるで好みではない」
 にべもなく一刀両断。マクシムはさすがに目を丸くして――声をあげて笑いだした。
「確かに、僕も彼女たちは貴方の好みとは違うと思うけれど――はっきり切り捨てたものだな……イスカルナの乙女も形無しだ」
「好みではないのだから、仕方がない。そんなこと取り繕っても無駄だ」
「フフッ……そうだけれど……。本当に容赦がないな」
 マクシムは笑い続ける。心の底から楽しそうだ。
 モンブランは小さく舌打ちをする。
「俺の事を笑っている君の方はどうなんだ、マクシム。断ってしまったことを惜しいと思わないのか?」
 マクシムは笑いを抑えるように呼吸を整えて、一度大きく息を吐いた。
「言葉を返すけど、貴方は僕があの誘いを受けると思ったのかい?」
「――いや。だが先ほどの、イスカルナの乙女達は“魅力的で申し分のない淑女”だったろう?」
 マクシムは顎に手を当てた。切れ長の瞳が細くなる。
「まあ……そうなんだけれど。ただ僕としては――」
 言葉を探している風情。基本即断即決なモンブランほどではないが、物事に対する迷いのないマクシムにしては珍しい。イスカルナの乙女と言う存在が、遠慮をさせているかのようだ。
「ピンと来なかったというか」
「ふむ」
「彼女たちと言葉を交わした時間は短いし、客人のイスカルナの乙女という意識以上のものはなにも感じなかったからね。正直、あんな言葉をかけられるのは戸惑った以上に面食らったよ」
「まるでそんなそぶりは見せなかったな」
「取り繕うのは得意だって知ってるだろうに」
「たとえ短時間でも、心が動かされることもあるんじゃないのか? 何しろイスカルナの乙女だ」
「そういう場合もあることは否定しないけれど――僕は少なくとも」
 マクシムの顔から表情が消える。
「もっと彼女たちと話をしてみたいとは思わなかった。今回の交流会に関すること以上に」
 冷たい、感情の無い言葉。無関心――マクシムが時折見せる、普段とはかけ離れた表情。彼が、常に穏やかで懐深く鷹揚というわけではないことを知っている人間は少ない。
 そしてその少ない人間の一人であるモンブランは大げさに肩を竦めた。
「つまりあれだ。君も彼女たちが好みじゃなかったということだろう」
 あっけらかんと言い放たれた言葉が、マクシムに表情を戻す。瞬きが、三度。
「――まあ……そうなる、かな」
「回りくどいヤツだ。ピンと来ないのも、話してみたいと思わないのも好みじゃないからだ」
「そうは言ってもイスカルナの乙女達だから、ね。女性として魅力的であることは否定できないから」
「魅力的だろうとなんだろうと、好みでなければ話にならん。そうだろう」
「――そうだね」
 視線を交わし、笑う。声を立てて、楽しげに。そのまま二人とも、己の寝台に横になる。
 横になっても、そのまましばらく二人は笑い続けた。
「しかしイスカルナの乙女も皆あんなものなのか。上に立つ者があれでは、本当に交流会が思いやられる」
「それぞれ……だと思うけれどね。レディー・デュラムは会長としてすべての乙女達の上に立つ者だ。あれくらい肝が据わっていなければ務まらない気もする」
「確かにな。だがまるで獲物を狩るような視線だったぞ」
「獲物って……僕らの事かい」
「俺たちも、学園の代表として上に立っている。自分で言うのもなんだが将来性は抜群だろう」
「それは僕も否定しないけど――随分と飛躍するな。さすがにそこまで考えてはいなかったと思いたいけれど」
 沈黙が落ちる。それ以上どちらも言葉を発しない。喋り疲れたのか、口からは音が出てこなくなった。
 横たわった二人の、深い息だけが、静けさに染み入っていく。
 やがて緩やかな呼吸が寝息になりかけたところで、重厚な鐘の音が鳴り響いた。二人は同時に覚醒し、体を起こす。
「――七時か。夕食の時間だな」
 モンブランは眼鏡を外し、眉間を押さえ首を振った。
「急ぐとしようか。食堂が混む前に」
 マクシムはクロゼットから自分の上着と共にモンブランの上着を取り出して手渡す。マクシムもモンブランも、流れるような動作で上着を羽織り、鏡を見て手早く身支度を整えた。
 さほどの間もなく、一部の隙もない若き紳士が完成する。
 お互いに身なりを確認し合って、頷きを一つ。
 二人は自室を後にした。



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