ククリア学園 もう1つの出会い
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ククリア学園

-Astorni & Isukarna-

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もう1つの出会い

 
 聖イスカルナ女学院。国内最高峰の一流女子校。幼稚舎から大学までが併設され、中高は一貫した教育を行っている。国内外から主に上流階級の子女が集まり、徹底した淑女教育を受けている。
 常に清らかに、常に美しく、淑女たれ ――― その校訓のもとに育っている娘たちは、装いも振る舞いも身のこなしも洗練されており、外部の者達からは憧れ羨望を籠めて「聖イスカルナの乙女」と呼ばれていた。
 その聖イスカルナ女学院との交流会が開かれるとあって、アストルニ学園中高等部は、浮足立っていた。普段は男子のみに囲まれている学園、学外でも「アストルニの紳士としての自覚を忘れぬように」と厳しく律しられている思春期の少年たちが、女性と堂々と対話できる、それも名にしおうイスカルナの乙女たちとお近付きになる絶好の機会とあっては無理もない。
 これを機会に、個人的なお付き合いが出来る相手をと夢に浮かれる者、近隣にも有名な乙女たちの噂に盛り上がる者、そんな彼らを興味ないと横目で見ながらも聞き耳を立てている者、そしてごく少数の、本当に無関心な者―――。
 中等部3年のレナルド・マクドナルドは、そのどれでもなかった。強いて言うならば、乙女には興味はない。彼の関心は、そうして浮足立っている学友たち、そのものにあった。誰がなにを考え、誰を想い、どう動いているのか。それを観察することこそ、目下のレナルドの楽しみであった。
 交流会当日、中等部会場を取りまとめるスタッフの一人として働くことにしたのも、そうした立場の方が、人の動きを観察できると考えたからだ。会が始まって1時間半余り、大小様々なトラブルはあるものの、おおむね会は順調に進行している。脳内のコルクボードにピンで留められたシーンも、順調にその数を増やしており、レナルドは密かにほくそ笑んだ。
 辺りには、薄い闇が降り始めている。会場にはほのかな照明が灯りだし、夕闇と相まって幻想的な雰囲気を醸し出していた。会場手前、軽食や菓子の並べられたテーブルが並ぶスペースは、既にまばらな人影があるのみだった。多くは奥の庭、広く開かれた歓談スペースへ移り、思い思いの相手との会話を楽しんでいるに違いない。
 レナルドもそちらに向かいかけ、ふと会場端の植え込み近くに置かれた椅子に、乙女が一人座っているのに気が付いた。肩下までの長さの亜麻色の髪は、左右の一部だけ編み上げ、後頭部で淡いピンクの小花の飾りとともに留めている。水色の膝上丈のワンピースからは、白く細い足が惜しげもなく投げ出されている。
 もちろん、レナルドはその乙女の顔は記憶にあった。先程まで、テーブルに並ぶ菓子と言う菓子、果物と言う果物を総ざらいにし、随時テラスハウスから補充されているはずの料理テーブルを一時空にしかけるという、類を見ない大食ぶりを披露していた乙女だ。あれだけの料理がどこに行ったのかと思う華奢な体で、それでももう十分に堪能したのか、幸せそうに飲み物のグラスを傾けている。
 彼女に声をかけようと、レナルドは歩みの方向を変えた。その理由は、2つ。1つは、この交流会が、社交と儀礼の授業の一環である以上、イスカルナの乙女一人とも話さずに終える訳にはいかなかったこと、そしてもう1つは、彼女が今日この場で、まだ誰とも会話をしていないことを知っていたからだ。
「 ――― 少し、よろしいですか?」
 声が聞こえるであろう距離まで近づいて、そっと声をかけると、乙女は慌てたように立ち上がり、ふわりと笑んで軽く一礼した。レナルドも、軽い一礼を返す。
「 ――― お料理は、お口に合いましたか?」
 尋ねると、乙女は満面の笑みでうなづき答えた。
「はい。それはもう! ――― 素晴らしいお味でしたわ」
「それは良かった」
「お料理は、アストルニの方がご準備を?」
「今日の為に、フライダ・フェイ・ホテルの料理人を呼び、お願いしたものだとか」
「そうでしたか! サンドイッチもお菓子も、どれも素晴らしいお味で、心行くまで堪能させて頂きました。感謝いたしますわ」
「ありがとうございます。そう言っていただけると、こちらも用意した甲斐があるというものです」
 会話が途切れたところを見計らって、椅子を勧める。微笑んで礼を言う乙女が座ったのを見届けてから、1つ空けた椅子に自分も腰を下ろした。
「僕は中等部3年、レナルド・マクドナルドと申します。 ――― よろしければ、お名前を聞かせていただけますか、イスカルナの乙女様?」
 彼女はちょっと考えてから、名乗りを返した。
「中等部1年の、ゴディバ・ヒューイットです」
 その答えに、レナルドは訝しそうに首を傾げた。
「……ご冗談でしょう?」
「なにがです?」
「あなたが、中等部1年だということがです。 ――― 失礼ながら、もう少し上ではありませんか?」
 乙女はくすりと笑った。
「女性の年を上に見積もるとは、確かに失礼ですね」
「申し訳ありません。ですが ―――、あなたは、身のこなしといい、受け答えといい、とても ――― 僕より年下には思えなかったので」
「まぁ」
 乙女は驚いたように目を瞠り、片手で口元を隠して上品に微笑んだ。
「慧眼、お見それ致しましたわ。 ――― お察しの通り、わたしの本当の年は、中等部1年ではありません」
 そして、ないしょ話をするように顔を近づけると、声をひそめた。
「本物のゴディバ・ヒューイットは今、白い花を付けて、西の庭園におります。高等部1年の、リリス・リンツとして。ですから、今日のわたしは、中等部1年のゴディバ・ヒューイットなのです」
 謎かけのような言葉だが、レナルドはその意図を正確に理解した。
「つまり、 ――― 入れ替わってらっしゃる?」
「どうか、ご内密に願いますわ」
 立てた人差指を唇にあて、悪戯っぽく乙女は片目をつぶってみせる。レナルドは、耐えきれずに吹き出した。同じように、立てた人差指を唇にあて、片目をつぶってみせる。
「了解です。 ――― 計画が無事成就した暁には、ぜひ真相を教えてください」
「もちろんですわ。 ――― ありがとうございます」
「もしかして、 ――― それで、あんなにたくさん召し上がってらしたのですか?」
「まぁ……。本当に鋭い洞察力をお持ちだわ。良くお分かりになりましたね」
「 ――― では、やはり?」
「はい。半分は。あのような大食ぶりを見せつけられれば、たいていの殿方は、まず引きます。今日のわたしは、あまり話しかけて頂くわけいきませんでしたから……、半ば意識してお料理を頂いてましたわ」
「では、残り半分は?」
「もちろん ―――、純粋に、心行くまでお菓子を頂くのは、わたしの最も幸せとするところですから」
 ふわりと広がる花のように、満面の笑みを浮かべる乙女。その彼女の表情を切り取って、レナルドはコルクボードにピンで留めた。後で高等部でなにがあったのか確認しなければ、場合によってはそれも記録しておくべきだろう、それ以外にも今日中等部会場で得られたスナップの数々に情報を補完する際に、この乙女とのつながりは役に立つ ―――。自身の脳内のメモに付随情報としてそう書き添えた時、ふいに騒がしくなってきた会場に、レナルドは顔を上げた。



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