ククリア学園 ひとめあなたに
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ククリア学園

-Astorni & Isukarna-

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ひとめあなたに

 
 アストルニ学園中高等部と、聖イスカルナ女学院中高等部の合同交流会、当日。
 春の空は、良く晴れていた。会場であるテラスハウスを訪れた時には、軽く汗ばむほどの陽気だったが、開会直前の今は大分日も傾き、心地よい風が吹いている。
「じゃあ、これがゴディバさんのね」
 受付で受け取った白い花のコサージュを、リリスはゴディバのドレスの肩口に取り付けた。
「大丈夫……でしょうか」
 交換でピンクの花のコサージュを、リリスが着た水色のドレスの胸元に取り付けながら、ゴディバは未だに不安そうだ。
「大丈夫よ。そうやって不安そうにしてる方が、挙動不審で注目を浴びてしまうわ。 ――― 堂々としてなさい。あなたはこれからの数時間、高等部1年のリリス・リンツよ」
「あたし……、先輩ほど食べられません」
 隣で、緩く巻いて耳の横で一つに束ねていた黒髪に、指定の白い花の飾りを付けていたアルチャは吹き出した。リリスは目を瞠り、そして柔らかく微笑んだ。
「そんな冗談が言えるようなら安心ね。 ――― 行ってらっしゃい。健闘を祈るわ」
「 ――― はい」
 きゅっと唇を引き結び、幾分緊張した面持ちでゴディバがうなづく。その肩をポンと叩いて、リリスは中等部会場へと歩き出した。「リリス」とその背に、アルチャが声をかける。
「なぁに?」
「 ――― 食べすぎるんじゃないわよ」
 リリスは肩越しにくしゃりと微笑うと、手首までの短いレースの手袋をはめた手をひらひらと振った。

   ☆★☆

 会場に入ると既にほとんどの学生が集合しているらしく、一帯は活気に満ちていた。立食形式の会場として用意された手前の数十の丸テーブルの周りには、色とりどりのドレスをまとったイスカルナの乙女たちが、サンドイッチやパイ、果物といった軽食に手を伸ばしながら、笑いさざめいている。黒い燕尾服を基調とした制服のアストルニ学園の若き紳士たちが、その間隙を埋めている。同校の者同士、相手の出方をうかがいながら囁き合ってる者もいるが、すでにそこかしこで挨拶が交わされ、談笑を始めている男女がほとんどだ。上流階級の社交界 ――― あまりにも遠かった世界が、今は目の前にある。
「大丈夫……でしょうか」
 ゴディバは自分の着ているドレスを軽く引っ張った。クリームイエローのふんわりとした膝丈のシフォンドレスは、腰のあたりで一度リボンで絞めてある。袖のないタイプだが、胸元はそれほど空いていない。アルチャが厳選し、リリスも太鼓判を押してくれた装いだが、華やかな会場の雰囲気に圧されて、場違いではないかと不安になった。
「大丈夫よ。リリスも言ってたけど、堂々としてなさい。先程すれ違ったアストルニの生徒会の方だって、なにも言わなかったでしょう?」
 並ぶアルチャは、サテン生地の濃い青のキャミソールドレスだ。白いショールに、肘までの長い手袋を合わせている。先輩らしく余裕を見せていたが、内心は初めての社交の場に緊張していた。掌に、小さく拳を打ち合わせて、こっそりと気合を入れる。
「 ――― それより、お探しする方はどんな方なの? 背の高い方と言ってたけど、先程の方くらい?」
「あ、いいえ、あの方よりは低かったように思います」
「他には、何か覚えていることはない?」
「あとは ――― 、そう、赤い髪の方でした。鮮やかな赤毛が夕日に映えていたのが、とても…… ――― 印象深くて」
 思い出すように瞳を閉じるとわずかに頬を染めるゴディバを見れば、何としてもこの二日のうちに、素性だけでも突き止めねばなるまい。決意も新たなアルチャは、鮮やかな赤毛と聞いて思わず幼馴染を連想した。とりあえず、探すべき「赤毛のアストルニ生」の基準にはなるだろうと、アルチャは会場にいるはずの幼馴染を探すことにした。

 料理の並ぶテーブルの周りを囲む人波を、縫うように二人は歩を進める。
「 ――― リリス先輩がいたら……、このお料理で、足が止まってますね」
 トレイに並んだ小さくカラフルなパイ達を見てゴディバが呟くと、アルチャも「そうね」と笑って同意した。
「今頃、中等部の方で、喜んで食べてるんじゃないかしら」
「アルチャ先輩も……、食べたいのではありませんか?」
 無理に自分のわがままに付き合わなくても、と歩みを緩めるゴディバを振り返り、アルチャは後輩の鼻先に指を突き付けた。
「莫迦な心配してないで、さっさと探しなさい。 ――― 見つかれば、思う存分食べられるんだから」
 立食会場の奥は、広く開けた歓談用のスペースになっていた。食事スペースから流れてきたアストルニおよびイスカルナの若き紳士淑女らが、それぞれ飲み物を片手に所々に設けられたベンチを占めている。食事スペースを一回りし奥までやって来た二人も、給仕から飲み物を受け取ると、会場隅の空間で一息つくことにした。
「……見つかりませんね」
「 ――― やっぱり、そう簡単には行かないわね。……なんせこの人数ですもの」
「両校あわせて900人近く……。本当に多い……」
「始まったばかりだし、あちらの食事があるテーブルの方が、人が多いわね。しばらく、こちらに来る人から探しましょうか」
 ふぅと息を吐いたそのとき、視界の片隅に赤い色が引っかかった。慌てて目で追うと、気配を察したのか影が振り返った。
「 ――― おや、誰かと思ったら、レディ・アルティスではありませんか。レディ・リンツとご一緒で、菓子のテーブルにいないと思ったら、……ご学友でしたか。レディ・アルティスに被れる猫がいたとは、流石は名門、聖イスカルナというべきですかね」
 近づいてきたのは、紛れもなく赤毛の幼馴染。むっとして、アルチャは低い声で応えた。
「 ――― お久しぶりですわね、サー・ヴァーノン・クッシュ。しばらくお会いしない内に随分と”お上品”な口上を覚えられたこと。紳士と名高いアストルニの方とは思えませんわ」
「失礼な」
「お互い様よ」
 アルチャが唇を尖らせると、ヴァーノンは両手を顔の横でヒラヒラと広げてみせた。
「ごめんなさい。―― 元気そうで何よりだ」
「お互いにね」
 懐かしさに、どちらからともなくふっと笑う。
「リリスも元気? てっきり今日は一緒に来ると思ってたけど」
「相変わらずよ。今日は所用があって別行動だけど。―― 良く判ったわね、彼女がリリスじゃないって」
「流石に、――― 二度も見間違うような、非礼はしないよ」
「……? ――― まぁいいわ。ちょうどよかった、聞きたいことがあったの。こっちは後輩なんだけど――――」
「いえ、先輩、その必要はありません」
 幼馴染を紹介しようと振り返ったアルチャを制して、ゴディバはアストルニの男性をまっすぐに見上げた。
「あのときの……、方ですよね?」
 あぁ、と、灰色の目が安堵したように緩んで、落ち着いた声が降ってくる。
「やはりそうでしたか。知人に似ていたのでもしやと思いましたが」
「その節は、ありがとうございました」
 ゴディバは居住まいを正すと、ドレスの裾を軽く持ち上げ、膝を折った。
「お世話になりながら、きちんとお礼もできずに申し訳ありませんでした。聖イスカルナ女学院中等部1年、ゴディバ・ヒューイットと申します。お陰で、刻限に遅れることなく帰寮する事ができました。――― 感謝いたします」
 非の打ち所がない一礼に、ヴァーノンは軽く目をみはった。困ったように頬を掻くと、ゴディバの前に片膝をついた。
「これはご丁寧に。――― こちらこそ、名乗りもせずに失礼をいたしました。アストルニ学園高等部1年、ヴァーノン・クッシュと申します。以後お見知り置きを。――― レディ・ヒューイット」
 滑らかな口上とともに、ゴディバの白い手を取ると、手袋越しにその指先に口付けた。
「……!」
 何か言いかけたが、言葉にならない。ヴァーノンが立ち上がるまで手をつながれていたことにも気づかず、慌てて引っ込める。何か言わなければと思うほどに顔が熱くなり、声が空回りする。
「ご、……ごめんなさい、先輩、失礼します!」
 それだけ言うのが精一杯だった。
「あ、ちょっと!」
 慌ててアルチャが制止の声をかけたが時既に遅し、賑わう会場の人混みの間を駆けていってしまった、ゴディバの後ろ姿は見えなくなっていた。
 軽くため息をつき、傍らで呆気にとられて佇む赤毛を睨め付ける。
「……何やってるのよ」
「何って……礼。一応、僕もアストルニの学生だし」
「はぁ、もう、莫迦ね。……責任、取りなさいよね」
「責任、て……」
「彼女は大事な後輩なの。――― 泣かせたら承知しないから」
「ええぇっ?! ちょっと、困るよ。彼女、中等部って……」
「そうよ。何か問題ある?」
「大ありだよ! 同室の奴に知られたら何を言われるか……」
「それは、私の知ったことじゃないわ。――― とりあえず、明日もつれてくるから」
「なっ!? ――― ちょっと、意味が分からないよ、アル!?」
 それ以上の抗議は受け付けないとばかりにアルチャは背を向けると、走り去ってしまった後輩の後を追いかけた。
 後には、状況が理解できず、自分の何が悪かったのかと、頭を抱えるヴァーノンだけが残された。



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