ククリア学園 作戦会議
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ククリア学園

-Astorni & Isukarna-

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作戦会議

 
「 ――― そういえば、お聞きになりました? 今度のアストルニ学園との交流会のこと」
 5月の土曜日の午後。授業もなく、学院外への外出も許されるこの時間は、およそ300人ほどが寝起きしている、聖イスカルナ女学院エナ寮も少し閑散としている。食事時にはほぼ全員が座席を埋める1階の食堂も、今は何組かの乙女たちが午後のティータイムをゆったりと楽しんでいるのみだ。だが、それぞれが咲かす話の花は、色鮮やかに華やいでいた。それは学院全体を覆う空気も同じだった。
「アストルニ学園中高等部との、合同交流会 ――― ですか」
 アストルニ学園。国内最高峰の一流男子校で、聖イスカルナ女学院とは双璧とされている。常に紳士たれを校訓に、選び抜かれた子息達が、文武両道の教育を受けている学園だ。学園との交流は以前は定期的に行われていたが、十年ほど前に一度途絶えた。それから特に繋がりはなかったのだが、今年に入って、改めてその交流会を復活させようという流れになり、あっと言う間に本決まりになったのだ。
 普段、街で見かけることがあっても、声を掛けることなど許されないアストルニの学生と、堂々と話が出来る絶好の機会と、学院中がその話題でもちきりだった。イスカルナからは、中高等部は全員出席のこと、しかも正装にてと指定されているため、ドレスやアクセサリーの準備にも余念がない。
「正直……、あまり乗り気じゃないのだけど」
 両手で頬杖をついたアルチャが嘆息する。
「どうして? きっと美味しいお料理がいっぱい出るわよぉ」
「そこは確かに魅力的なポイントだけどもね、リリス。……それだけで動くのはあなたくらいよ」
 アルチャお手製のパンプキンパイを頬張りながら、リリスは意味が判らないというように、猫のような茶色の目をくりんと回した。
「まず、何を着ていくかだって問題なのに……」
 交流会は、土日二日の日程で行われる。当然、両日違う衣装を用意することが望まれる。選ぶほどの衣装を持っているリリスはともかく、奨学金制度を利用して入学した、さほど裕福な家庭ではないアルチャやゴディバにとっては、まずドレスを用意するところからして難儀なのだ。加えて。
「アストルニの高等部には、あいつがいるってのが問題なのよね」
「あいつって……小学校の時の?」
「そう。私は中学も一緒だったんだけど……、何を間違ったのか、アストルニに進学したの」
「……あの彼が?」
「あの彼が」
 リリスは目を細め、得たりとばかりに笑みを浮かべた。
「それは、是非会いに行きたいわ。さぞや ――― 制服の似合わない、似非紳士でしょうねぇ」
「えぇ、笑いに行ってやりたいのは、やまやまなのだけどね。あいつに会ったら、あなたはともかく、……私は似非乙女だと笑われる危険性がある、諸刃の剣なのよ…!」
「アルが似非乙女だなんて……、そんなことはないわ。自信もって大丈夫よ」
「そう……?」
「えぇ。それにあちらの学園も、高等部だけでも400人以上いるのでしょう? そうそう簡単には会わないわよ」
「そうかなぁ……」
 ティーカップの縁を指先でなぞりながら、アルチャはそれでも不安そうだ。
「何を着ていくつもりなの?」
「濃い青色の、丈の長いドレスがあるからそれで……。後はショールとかコサージュの組み合わせで、二日間誤魔化そうと思ってるけど。 ――― 後で相談に乗ってくれない?」
「もちろんよ。 ――― ゴディバさんは、どんな服を着てくの?」
「 ――― え?」
「交流会。どんな服を着ていくの?」
「あ……あぁ。 ――― 薄い水色のワンピースタイプのがあるのでそれを。アクセサリなどはまだ考えてないので、……これから考えないといけないですね」
 ゴディバのドレス姿と、それに合うアクセサリをあれこれ考えているのか、リリスは楽しそうに、右手のフォークをくるくるとまわした。
「まだ中等部ですし、ゴテゴテとしたものは要らないでしょう。ゴディバさんは肌も白くて綺麗ですから、あえて飾らずシンプルな方が良いと思うわ」
「そうですね……」
 どこか上の空なゴディバの返答に、アルチャが首を傾げる。
「……何か悩み事でも?」
「もちろん、小物選びも相談に乗りますよ」
「ありがとうございます。……いえ、そういうことではなくて」
 高等部の2人は顔を見合わせ、軽く首をかしげると、無言で話の続きを促した。躊躇いながら、ゴディバが口を開いた。
「 ――― 交流会は、中等部と高等部、別々の会場だと聞きました」
「えぇ。アストルニにほど近いテラスハウスで、東側の庭園が中等部、西の庭園が高等部のそれぞれ会場だとか」
「ゴディバさんは、きっとアストルニの殿方からも人気でしょうねぇ。……その様子が、見られないのは残念だわ」
「あたしも先輩たちが、取り囲まれてる様子を見られないのは残念ですよ。 ――― そうではなくて……、高等部で、探したい人がいたのです」
「あら、 ――― 既に想い人がいらっしゃったの」
「いえ、そういうわけでは……。実は、入寮してすぐの頃、駅前で帰りのバスがわからなくなってしまったことがあって。親切に教えてくださったのが、アストルニの方だったのです。そのときはお名前も聞けずじまいだったので……。できれば、もう一度お会いして、きちんとお礼を言いたくて」
「まぁ」
「高等部の方なの?」
「背の高い、とても落ち着いた方でしたので、おそらくは高等部だろうと……」
「なるほど」
 うんうん、とアルチャは2,3度鷹揚に頷くと身を乗り出した。
「判ったわ。協力しましょう!」
「 ――― え?」
「つまり、ゴディバさんは、高等部の会場に入りたいわけよね。……それなら簡単よ。ゴディバさんが、リリス・リンツと名乗って交流会に参加すればいいんだわ」
「 ――― ちょっと、アル? どういうこと?」
「気づいてないの? あなたたち二人はよく似てるのよ」
 言われて、リリスとゴディバは顔を見合わせた。肩下までさらりと流れる亜麻色の髪と、同じくらいの背。白く細く、女性としての丸みがまだ未成熟な肢体。遠目に見たときの印象は、確かによく似ていた。
「近寄って、顔見て話したら別人だってわかるわよ。でもそんなに近づく訳じゃないし……。高等部の方々だって、まだ全員が全員の顔を覚えているわけではないでしょう?  ――― 堂々と入って、にっこり黙ってればバレないわよ」
「アル? じゃあわたしはどうするの?」
「ゴディバさんの代わりに中等部の交流会に出ればいいの」
「え、でも……」
 抗議しようとするゴディバの言葉を、アルチャがおしとどめる。
「もちろん、2日とも私がそばについていくわ。1日で見つかるかどうかはわからないけど……。アストルニの知人にも話して情報を集めて貰えば、2日のうちに名前くらいはわかるのではないかしら」
「そんな……。いえ、先輩に悪いです。これはあたしの個人的な人探しですから……。先輩だって先刻、その知人の方には会いたくないって……」
「会いたくないけど、ゴディバさんのためですもの。こちらの方が重要よ」
「こちらのほうが面白そうですもの、でしょう、アルは」
 リリスがからかうと、アルチャはぺろりと舌を出した。
「あら、バレてた?  ――― ――― そうと決まれば、早い方が良いわ。ゴディバさん、私たちの部屋へいらっしゃい。リリス、ドレスだして」
「はいはい。 ――― 明るめの色が良いでしょうね。オレンジとかクリームとか」
「小物もあるだけ出してちょうだい。色々合わせてみたいし」
「えぇ。二日分決めてしまいましょう。 ――― 髪はどうする?」
「あぁ、それも考えた方がいいわね。アップにした方がいいかしら ――― 」
「あ、あの、ちょっと、先輩!?」
 本人そっちのけで衣装の相談をしながら自室に戻っていく二人を、ゴディバは慌てて追いかけた。



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