ククリア学園 フライダ・フェイ・ホテル
FC2ブログ

ククリア学園

-Astorni & Isukarna-

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
スポンサー広告 | TB(-) | CM(-)

フライダ・フェイ・ホテル

 
 五月頭の放課後。
 モンブランはマクシムと打ち合わせをするために、生徒会室にやってきた。
 二人での打ち合わせならば、自室でも出来るし、実際そちらでやることの方が多いが、今は教師陣他各方面への確認作業も伴うため校内の生徒会室の方が都合がいい。
 故に、交流会が月の半ばに迫った現在は、二人して生徒会室に詰めている時間が長くなっていた。
 扉をノックすると――どうぞ――と、声がした。中に入るとマクシムが、部屋中央に置かれた応接セットに座り、書類を見ながら難しい顔をしていた。
 部屋には生徒会長執務用の机もあるが、マクシムは滅多にそこに座らない。そこで仕事をすればいいとモンブランは言うのだが、彼は「会長は自分だけではない」と言って応じない。
 現在のアストルニ学園生徒会は二人会長制で、マクシムとモンブランがその任に着いている。渉外事が得意なマクシムが基本的に前面に立つことが多いのだから、彼が会長で良いのではないかとモンブランは思うのだが、マクシムはそれにも頷かない。曰く、自分の力だけで物事が回せるわけがない――と。
「お疲れ様」
 マクシムは書類から目を離さず、モンブランに声を掛けてきた。
 モンブランはクロゼットに荷物を入れながら、
「お疲れ――随分と難しい顔をしているな」
 笑って彼を揶揄する。
「また女学院が無理難題でも言ってきたか?」
 大きなため息が聞こえた。
「いや……そういうわけではないんだが、どうしたものかなと」
「ふむ」
 ガウンと上着もクロゼットに仕舞い、隣の小部屋、給湯設備に向かう。薬缶に水を入れ、火にかけた。備え付けの棚を覗き少し悩んでから、アールグレイの茶葉が入った缶をとる。ティーポットに二人分よりも少し多めの茶葉を入れた。
 特に決めているわけではないが、二人の時に茶を淹れるのはモンブランの役目だった。モンブランは家族が多いこともあり、実はマメな男である。早くに父を亡くし、女手一つで自分たち大勢の家族を育ててくれる母を少しでも楽にするために、自分の身の回りの事、姉弟同士お互いの世話なども率先してやろうという意識が身についている故だ。
 料理も簡単なものなら手早く出来る。繕い物も必要とあればやる。片付けは手早い。そういう生活スタイルは学園の寮に入っても変わらず、自然と発揮されるもので、最初はマクシムを驚かせたものだ。
 尤も、モンブランのそうした一面を知っている者は、学園では同室である彼だけなのだが。
 時間をかけ良く蒸らした茶を二人分注いで運ぶ。テーブルの上に並べると
「ありがとう」
 マクシムが微笑んだ。
 モンブランは向かいの席に腰かける。
「それで、何をそんなに難しい顔をしてたんだ。悩んでいる風だったが」
「悩んでいるというか、結論は出ているに等しいんだけどね……」
 差し出された書類を受け取る。渡された書類は二部。片方は見慣れたアストルニ学園の校章が入った学園正式書類。もう一方は聖イスカルナ女学院の校章が入っていた。
「交流会で提供される食事に関する件か。結局テラスハウスのレストランには任せないのか?」
「学園、女学院双方とも、出来れば外部のそれなりの所に依頼したいと考えてるみたいでね。希望先をリスト化してきたわけだ」
「ふむ。それで選択権は俺達に?」
「そう。この中から選べと丸投げされた。このリストにあがっている所ならどこでもいいそうだ」
「希望があるなら双方の教師陣で好きに決めてもらって構わないのではないか……」
「今回の件に関しては、どちらの教師陣も基本的に口を挟まないというスタンスのようだからね。決定はすべて僕らで、ということみたいだよ」
 マクシムはうんざりと肩を竦めて、茶を啜った。
「で、あるならば、イスカルナ生徒会に振るべき話のような気もするが……。食に関してこだわりがあるのは、どちらかというと女性だろう」
 モンブランの言葉にマクシムの顔が更に渋くなる。
「特にこちらとしては要望はなく、すべて学園生徒会にお任せします――とのことだ」
「……後で文句とか言われないだろうな……」
「学園教師陣、女学院教師陣双方から提出されたリストから選んだのなら、それはないと思うけれどね……。女学院の方は、あちらの生徒会で作ったのかもしれないし」
 書類の内容に目を滑らせる。国内外で有名なレストラン、ホテルの名前がずらりと並んでいる。
 あまりにも有名なところばかりで、何故だかげんなりとしてくる。
「おい……このリスト、高級なところばかりじゃないか……大丈夫なのか?」
「僕はこのリストを見た瞬間、金に糸目はつけなくて構わないのだと判断した」
「ッ……いや、だがしかし、普通予算は節約しろと言われるものだと思うが」
「節約という方針ならば、テラスハウスのレストランに任せて終わりだろう。そこを敢えてと言って、このリストを出してきたんだからね。まあ予算の事などこの際気にせずに、選ばせてもらおう」
「――やれやれ……」
 モンブランはマクシムが難しい顔をしていた理由をしみじみと実感した。
 双方とも挙げているレストラン、ホテルは十五件ほど。一つ一つ確認して見比べていく。七件がどちらのリストにも書かれていて、その一つが目に留まった。
 モンブランはマクシムを見る。
「フライダ・フェイが、挙がっているじゃないか。どちらにも」
「――ああ」
「では、ここで決まりじゃないか?」
 無言で視線を交える。探るように見つめると、マクシムは無表情で、ゆっくりと息を吐いた。
「――そう。だからさっき言ったんだ。結論は出てるに等しい、とね。ただ、その判断を僕が下していいのかと……」
「聖イスカルナ女学院はともかく、学園教師陣は諒解していることだろう。“フライダ・フェイ・ホテルの料理人が誰なのか”。その上でリストに入れてきている」
「そのはずなんだけどね」
「それに学園側のリストだけにあって選んだのならともかく、女学院側もリストに入れてきている。それならば、フライダ・フェイを選ばない理由はないだろう。何しろ“一番信頼できる”はずだ」
「ああ。“信頼という意味では”フライダ・フェイに勝るところはない。まだ涼しい時期とはいえ、大人数が屋外で摂る食事だ。衛生的な面の安全、食中毒等が発生しないようにするための配慮。そう言ったものは非常に重要になってくる。そして、フライダ・フェイならそれらに関する不安は格段に少ないんだ。ただ――」
「――身びいきが気になる、か」
 モンブランの言葉に、マクシムは苦笑して頷いた。
「僕が自らフライダ・フェイ・ホテルを指名するのは――なんとなく、ね」
「そんなことを気にする必要はないだろう。先ほどの繰り返しになるが、双方のリストに入っているんだ。選んで文句が出るはずがない。安全面に関しても絶対的に信頼できる。それに何より」
 モンブランは口の端を上げた。
「フライダ・フェイの料理は美味いじゃないか――君の父上の料理は」
 力強い言葉に、マクシムは軽く目を瞠ると、くすぐったそうに微笑んだ。
「――そう、だね。リストにのってる他の所はともかく、フライダ・フェイの料理の味は、良く知ってる」
「そういう意味でも、選ばない理由はない――だろう? 信頼に加えて、何より重要なのは味だ」
 マクシムは大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。モンブランから書類を受け取って、眺める。
「では――アストルニ学園生徒会長裁量で、料理の依頼はフライダ・フェイ・ホテルに……で、いいかな」
「ああ。異論はない。それで依頼の方は、俺達からするのか?」
「――いや。そこは学園長、学院長の方から連名で行ってくれるそうだ」
 モンブランは微妙な顔をする。
「また、さっきの繰り返しになるが、だったら最初から教師陣で決めてくれれば……」
 マクシムは大げさに肩を竦める。
「教師たちにとっては、生徒主導で行っている催しだという体面が必要なんだよ――多分、ね」
 うんざりとした顔を見合わせて、茶を啜る。
 マクシムは書類をテーブルに置いた。
「後はまあ、断られることも想定して二、三候補を挙げておくべきか……」
「断られるとは思えないが」
「僕もそれはそう思う。でもまあ、一応……ね」
「では、双方のリストに挙がってる、フライダ・フェイ以外のところから適当にでいいだろう。正直、フライダ・フェイ以外は俺にはわからん」
「レストラン・モレには、良い料理人がいると父が言っていた。後は――ベルカ・ダイニング……かな」
「君がそう言うなら、それでいい。フライダ・フェイ、レストラン・モレ、ベルカ・ダイニングで」
「ん……じゃあ、そうしておこう」
 二つのティーカップが空いたのを見て、モンブランは再び給湯室へ行く。ティーポットに湯を注いで持ち帰る。
「それにしても、フライダ・フェイの料理が出るのか。豪華な交流会になりそうだな」
「高級すぎる気がしないでもないけれど、学園も女学院も上流家庭の生徒が多いからね。それくらい張り込んだ方がいいのかもしれない」
「確かに。フライダ・フェイなら誰からも文句は出ないだろうな――間違いなく、美味い」
 しみじみとしたモンブランの語尾に、マクシムが楽しげな笑い声をあげる。
「フフッ――確かに、皆、満足してくれるだろうけれど……僕らはきっと食べる暇はないよ」
「――まあ、そうだろうな」
 空いたティーカップに茶を注ぎながら、苦笑い。
 そんなモンブランを見つめるマクシムの笑みは深い。
「また次の休暇にウチにくればいい。貴方が来るとなれば、はりきって腕を振るってくれるさ」
「それは、楽しみだ」
 二つのティーカップに、茶が満たされる。
 ベルガモットの香りが、ゆったりと広がって、二人の鼻腔をくすぐった。



コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する
カテゴリ
検索フォーム
QRコード
QR


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。