ククリア学園 洗濯日和
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ククリア学園

-Astorni & Isukarna-

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洗濯日和


 自主自立を旨とするアストルニ学園学生寮では、基本的に身の回りの事は己で行わなければならない。衣類の洗濯もその一つで、制服のブレザーやコートなど、一部については定期的に専門の業者に依頼することができるが、シャツや下着、タオル、靴下、それに私服については、暇を見ては各寮に設けられた洗濯室で、各自で洗濯することになっている。
 ある休日の朝、さして大きくもない洗濯かごに山盛りの汚れものを抱えて、ヴァーノン・クッシュは洗濯室にやってきた。居室の半分ほどのスペースには、数台の洗濯機とそれよりは少ない乾燥機とが並んでいる。幸い、部屋は無人で機器はすべて使用可能だった。ヴァーノンは、適当に端の一台を選ぶと汚れものを放りこみ、規定量の洗剤を入れてスタートボタンを押した。注水が始まったのを確認して、ポケットから文庫本を取り出す。全自動の洗濯が終わるまでの数十分は読書に充てるつもりで、ヴァーノンは壁に寄り掛かると本を開いた。
 十数ページ読み進めたところで、人の気配と物音に顔をあげると、金髪の学生が一人、やはり小山に盛られた洗濯かごを抱えて、一つとなりの機械で洗濯に取り掛かろうとしているところだった。赤い眼鏡をかけたその顔は、入学して間もないヴァーノンでさえ知った顔だった。
 アストルニの双璧と称される、生徒会長が一人、モンブラン・ビーニャス。
 モンブランは、慣れた手つきで洗濯ものを仕分けていた。そのまま洗濯するもの、洗濯用ネットに入れるもの。濃い色のものを別にしているところを見ると、2回に分けるつもりなのだろうか。シャツやズボンはポケットの中身が空であることを確認し、一つ一つ広げて目立つ汚れがないかも確かめている。必要があれば、別途洗剤を染み込ませておき―――。
 その神経質なまでの細やかな作業に、ヴァーノンはすぐに文庫本に戻すはずだった視線を釘付けにされた。テキパキと洗濯の準備を進めながら、その無遠慮な視線に気づいたのだろう、モンブラン・ビーニャスは一度手を止め、顔をわずかに動かすと、低い声で問うた。
「――― なんだ?」
 ぎくりとして、ヴァーノンは手にしていた文庫本を閉じ、姿勢をただした。
「す、すみませんっ! なんでも、ありません」
「なんでもないなら、なにを見ている?」
 再び手を動かしだしながら、重ねてモンブランが問う。
「い、いえ、その……。か、変わってるなと、思ったもので……」
「変わってる?」
「その……、会長は洗濯をする暇もないほどお忙しい様なのに、丁寧に洗濯されるんだなって……」
「――― 別に、それほど丁寧にやっているつもりはないが……」
 モンブランは、仕分けの終わった衣類を、順に洗濯機に入れていく。
「それに、忙しいのは確かだが、洗濯する時間くらいある。ため込んだとしても、せいぜい二日分というところだ」
「はあ……」
 ヴァーノンは曖昧にうなづき、怪訝そうな視線を洗濯物に向ける。
「その割りには……多くないですか」
 そんなことはない、と言いかけて、モンブランは両者の間に誤解があることに気付いた。
「二人分だ」
「二人分?」
「マクシムの分だ」
 双璧を成すもう一人の生徒会長、マクシム・マレット。両会長が同室であることは、ヴァーノンも耳にしていた。だが―――。
「お二人は……、仲悪いんですか?」
 思わず口をついてしまった言葉に、はっとヴァーノンは口をつぐんだ。洗濯物と洗剤を入れた洗濯機のふたを閉め、ボタンを操作しながら、モンブランは視線だけでどういうことかと続きを促す。仕方なく、気まずそうに視線を外しながら、ヴァーノンは言った。
「その……、洗濯を押し付けられるなんて、仲違いでもしているのかと」
 意図を察したモンブランは、その言葉を吟味するようにしばし中空を見つめた。
「―――別に悪くはない」
「……そうですか」
「洗濯は嫌いじゃない。それに――― 一人分も二人分も、必要な時間はそう変わらない。ならば、まとめてやってしまった方が効率的というだけだ」
「なるほど……」
 その時、場違いな明るい電子音が鳴り響いて、洗濯機が稼働の終了を告げた。ヴァーノンは、不躾な質問を浴びせた事を詫び、洗濯の終わったシャツやタオルを取り出していった。
「――― 君も、だいぶ多いな」
 その様子を、見るとはなしに見ていたモンブランが言った。
「こちらも―――、二人分です」
「二人分?」
「同室の奴に……、押しつけられまして」
 ため息交じりに言いながらも、おそらくは彼我の区別なく、濡れてよれた衣類のしわを丁寧に伸ばしているヴァーノンに、モンブランは眼鏡の奥の目を細めた。
「――― 仲……、良いんだな」
 虚を突かれた言葉に思わず手を止め少し考えると、ヴァーノンは苦笑した。
「 悪くはないのかも……しれませんね」



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