ククリア学園 始まりの話
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ククリア学園

-Astorni & Isukarna-

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始まりの話

 
 マクシム・マレットと出会ったのは中等部一年の時だ。中等部に上がる際、寄宿舎の部屋が大部屋から二人部屋に変わった。その同室の相手がマクシム・マレットだった。
 成績優秀品行方正なマクシム・マレットの事はもちろん以前から知ってはいたが、クラスが違ったこともあり関わったことはなかった。
 ただ、常に自分よりも上位に名前がある男――という極めて面白くない印象があっただけだ。
 柔和な顔。優しげな物腰。人当たりも柔らかい。自分とはまるで正反対。涼しげな顔で、軽々と様々なことをやってのける。そんな様が鼻についた。
 この男は自分とはまるで違う――頭からそう決めつけてかかって接したために、関係は余所余所しくなってしまった。こちらが一歩以上退いていることは、当然相手にも伝わるからだ。
 マクシム・マレットと俺は一年間、必要以上に関わらず、部屋を共有しているだけの相手という関係で過ごした。
 それが変わったのは中等部二年の時だ。
 二年の春。中間考査一か月ほど前の事だ。学内で何人かの生徒の個人的な内情が流布されるという事件が起こった。隠しておきたいような個人的な趣味嗜好、昔の話、身内の実情などなど――それらを悪意のある形で書いたものが、掲示されたり回覧されたりしていた。
 その日の放課後も、クラス横の掲示板の人だかりを覗けば、クラスメイトの一人の赤裸々な話を書き連ねたビラが一枚貼られていた。
 俺は無造作にそのビラを剥ぎ取った。人だかりがどよめいたが睨みつけて黙らせる。そのままビラを握りしめて、寮の自室に戻った。
 部屋ではマクシム・マレットが本を読んでいて――
「――随分と、憤慨しているね」
 珍しくこちらに声をかけてきた。多分、感情を露わにしている俺が珍しかったのだろう。
 俺もこの憤りを誰かにぶつけたかったこともあり――マクシムに向き直り
「これを見ろ」
 握りしめていたビラを突きつける。
 マクシム・マレットは目を丸くして、本を横に置き、ビラを受け取った。
「これは――またか。最近続いているね」
「今月に入ってからもう何人も被害にあってる」
「確か――五人。しかもこの彼は、三度目じゃないかな」
 マクシム・マレットの冷静な言葉に俺は驚く。
「随分と記憶力がいいな」
「気になっていたからね。一度きりの悪戯なのかと思っていたら、続いている。被害が広がるかもしれないと思っていたら、そういうわけでもなく同じ人間に対して繰り返し行っている――何か意図があるのではないかなと」
「――意図、か」
 確かにその通りだと思う。同じ人間を狙って、繰り返し行われる悪辣な暴露。何の狙いもなく、行っているとは思えない。
 マクシム・マレットは何かを思案するように瞳を眇めて、ビラを眺めている。
「どう思う?」
「――どう、とは?」
「君は意図があるのではと言った。何か思い当たることがあるのではないのか?」
 俺の言葉にマクシム・マレットは軽く目を瞠り、瞬いた。
「思い当たること、はないけれど、想像はできる――かな」
「何を?」
「このビラに書かれているのは、ドーファン君。他に被害に合っているのは、クラフ君、ケルビーニ君、サーキス君、クラヴェリ君だったはずだ。彼らの共通点は何か」
「ドーファン、クラフ、ケルビーニ、サーキス、クラヴェリ」
 五人の顔を思い浮かべ
「ああ」
 そのことに思い至る。
「学年上位常連か」
「そう。全員だいたい常に十位以内に入っているね」
「だとしたら成績的なことが原因の妬み?」
「多分そんなとこだろう。もうすぐ中間考査だ。今回の考査からは高等部に上がる際の評価にも関わるようだから」
「この五人にこれ以上暴露されたくなかったら――というような脅迫でもしようとしている?」
「――いや。多分精神的な揺さぶりじゃないかな。この五人は、既に皆それぞれに堪えているようだから。脅迫なんか必要ないだろう」
「そういえば――この間の小テスト、全員あまり良くなかったような気がするな」
「人に知られたくないようなことをばらされてしまった。周りが皆、自分のことを知っている――というのは精神的にはだいぶ負担だろうからね」
「――なるほどな」
 マクシム・マレットの言葉には筋が通っている。だが。
「待て」
「ん?」
「成績上位のヤツを狙っているのなら――何故、俺と君が対象にならないんだ」
 俺自身も学年上位十名から外れたことはない。マクシム・マレットに関しては言わずもがなの、首席争い常連だ。当然対象になってもおかしくはない。
 マクシム・マレットは切れ長の瞳を瞬かせ――楽しそうに笑った。
「僕と貴方にこういうことをされるネタがあるかどうかという話もあるけれど、そもそも」
 笑みが深くなる。
「貴方も――自分で言うのもなんだけど――僕も、こんなことで動揺するほど繊細なタマじゃないだろう?」
 不意を衝かれて、自分の目が丸くなったことがわかる。
 そっと眼鏡の弦を押し上げて――笑う。
「クッ――違いない」
 顔を見合わせて、声を立てて笑った。
 同室になって初めてのことだが、悪くなかった。
「では犯人は、学年上位十名に近い人間か?」
「どうだろう。ひょっとしたら十名の中にいるかもしれないし、可能性として、五人の中に自作自演してる者がいないとは限らない」
「自作自演、か。自分で暴露してもそこまで痛手ではない話を出しておいて、目くらましというわけだな」
 ビラを受け取り、再度眺める。人の触れられたくないところをあからさまにする卑劣で悪辣な手段。己の力量で勝負しようとしないヤツがいる。
「マクシム・マレット」
「? 何だい?」
「俺は、こう言ったことは絶対に許せない。犯人をこの手で挙げてやる」
「貴方らしいな――モンブラン・ビーニャス」
「だから、手を貸せ」
「――!」
「容易ではないことだろうが、君となら出来る気がする」
「――そんな風に思ってくれるのは光栄だ。僕に出来ることがあれば喜んで」
 こうして俺とマクシム・マレットは協力してこの問題の調査をし――結果、犯人を挙げることに成功した。
 そして俺は今まで他人行儀にしていた同室の男を、マクシムと呼ぶようになり、マクシムも俺を名前で呼び捨てるようになったのだ。
 気を許せば、これほどにやりやすい相手はいなかった。まるでタイプの違う相手というのはもちろん変わらないが、一つの物事に当たる際に違う方向からのアプローチを見せてくれるという点で、マクシムと組むというのは有意義なことだった。
 その上、二人でやると驚くほどに物事が円滑に進む。主導を握る方を状況次第で変え、もう一方がそのフォローをする。結果、様々な問題が解決する。
 自然、二人であれこれすることが増え、その内に対外的にも俺とマクシムが二人で先頭に立てばどうにかなるという認識が浸透し、いつの間にか二人揃って学年の中心になっていた。
 まったくタイプが違う相手と思っていたが、改めて見つめ直すと、似ているところも多い。俺もマクシムも基本余裕を持って行動するので、朝が早い。物事は整理されていることを好む俺と、何事にもマメなマクシム――二人の部屋はしっかり整頓されている。いつの間にか本が増えていることには若干辟易することもあったが、それらはちゃんと分類されて収まるべきところに収まっているし、増えた分だけしっかり新たな収納場所を確保している。
 何となく気に食わないと思っていたにも関わらず、特に問題なく今まで生活出来ていたのは、やはり根本的に剃りが合っていたということなのだろう。
 そして月日は流れ、同室の期間も既に五年目。
 朝、起きて身支度を整え、届いている新聞に目を通し、その内容について珈琲を飲みながら会話をする――そんな時間は、今となっては居心地がいいとさえ思う。
「この記事、どう思う? マクシム」
「ああ、最近話題だね――あまり感心はしないけど」
 今日も俺とマクシムは、珈琲を飲みながら一頻り語り合う。
「そう言えば、聞いたかい? モンブラン」
「ん?」
「聖イスカルナ女学院との交流の話」
「ああ。本決まりになりそうなのか?」
「らしい。近日中に生徒会の方に正式に話があるそうだ」
「――やれやれ。色々面倒なことになりそうだな」
「イスカルナと交流となると、皆浮つくだろうからね。しっかり引き締めないと」
「だな」
 ゆっくりと珈琲を飲む。朝食まではまだだいぶ余裕がある。もうしばらくのんびりしてもいいだろう。
 今の俺とマクシムには語ることは幾らでもあるのだから。

 



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※この創作はこちらの話と対になっています
紳士二人、乙女二人-目次-

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